日本で唯一、受刑者同士に「対話」をさせる刑務所が島根県にある。20年間裁判傍聴を続けるノンフィクション作家の北尾トロ氏は「刑務所を出所した人のうち、5年以内に再び刑務所に入所する人の率は48.7%。だが、この刑務所で対話のプログラムを受講した人の再入所率は9.5%。受刑者同士が『償い』について話し合う効果は大きい」という――。

2人に1人は、再び刑務所に戻ってきてしまう現状

僕は20年間、裁判傍聴を続けてきた。これまで本連載で紹介したように善良なビジネスパーソンが思わぬことで罪を犯し、転落する。その経緯と法廷の様子を『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか』(プレジデント社)という本にまとめた。

北尾トロ『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか』(プレジデント社)

では、判決が下った後、彼らはどこへ行くのか。有罪でも執行猶予がつけば社会に戻るが、実刑であれば刑務所だ。

誤解されがちなことだが、裁判は本来、有罪となった犯罪者を刑務所という“見えない場所”に閉じ込めるために行うものではない。死刑囚や無期懲役囚を除く受刑者の多くは、刑務所で一定期間罪を償えば出所して、一般社会に戻るのだから、また犯罪をおかさないよう受刑者を更正させることが刑務所の重要な役割となる。

では、日本の刑務所は更生させることに成功しているか。

2018年版の犯罪白書のデータを見てみよう。刑期を満了し刑務所を出所した者のうち、5年以内に再び刑務所に入所する人の割合は49.2%だから約半数が刑務所に戻ってくるという計算だ。

確信犯的に刑務所に戻ろうとする人もなかにはいるが、そうでない人もたくさんいる。でも、戻ってしまう。人々の偏見や、元受刑者を雇うところが少ないなど、社会全体が更生をしにくくしている面はあるだろうが、刑務所が役割を果たせていないことも否定できないだろう。