「本当にそれでいいのか? もっと真剣に生きるべきじゃないか?」

カメラはときに外へも出て、TCを受講し終えた元受刑者(出所して社会人になった)の集まりを映す。見事に立ち直った人もいれば、再び犯罪をしてしまいそうな危なっかしい生活をしている人もいる。短期のバイトで職場を転々としている元受刑者が「本当にそれでいいのか? もっと真剣に生きたほうがいいんじゃないか?」と他のメンバーから詰め寄られ涙を浮かべる場面など、仲間を見捨てない気持ちにあふれてグッとくる。

この官民協働の刑務所の成り立ちと目的は、アメリカ発祥の「PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」と呼ばれる仕組みをお手本としている。

国だけではなく民間の資金や能力を導入して、公共サービスの質を高めようとする考え方で、裁判員裁判の開始が2009年5月だったことを考えあわせると、刑務所の在り方を考えるべく、司法改革の一環として試験的に導入されたものだろう。

昨今のニュースや政治家などの言動を見ていると、なんでもかんでも自己責任、強いものになびき、弱いものを叩く風潮が強くなっているような気がする。人は失敗を恐れ、失敗した人を見下し否定することで優越感を抱こうとする。

でも、そんな世の中は息苦しくないだろうか。生きていれば何かにつまずくことあるのだから、失敗したら、次は失敗しないように頑張ればいい。でも、こんなふうと書くと、「そんなの甘い」と上から目線の意見が飛んできそうだが。

(C)2019 Kaori Sakagami
ドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』(坂上香・監督)より

「再入所率」はTCのプログラム受講者9.5%、非受講者19.6%

この映画作品に支援員として出てくる同志社大学心理学部の毛利真弓准教授らが2009年2月~2015年3月のセンター出所後に再び刑務所に入った割合(再入所率)を調査したところ、このTCのプログラム受講者は9.5%で、非受講者19.6%の半分以下だった。先に紹介した国内全体での再入所率は49.2%。調査対象の母集団が異なるので単純な比較はできないが、かなり低いことは確かだ。受刑者同士による対話は再犯の欲効果において大きな効果を上げているのだ。

(C)2019 Kaori Sakagami
ドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』(坂上香・監督)より

もちろん、他のアプローチ法もあるだろう。受刑者が刑務所でどういう時間を過ごすべきか、本腰を入れて取り入れる時期に来ているのではないか。

その価値は経済的な面からもある。ひとりの受刑者にかかる経費は、年間数百万円と言われている。すべて税金だ。再犯者が減れば使われる税金も減る。しかも、彼らが更生して社会に復帰すれば、市民として税金を払い、稼いだ金を使う消費者にもなるのだ。

この映画に結論はない。

『プリズン・サークル』を観ることは、受刑者やそこで働く人以外は見ることのできない日本の刑務所が、どう変わろうとしているのか、その最先端を知るチャンスでもある。

興味本位でもいいと思う。エンドマークが出る頃にはきっと、犯罪について、回復について、再犯について、出所後の生き方について、これまで気にもしなかった気持ちが芽生えているに違いない。

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