▼忘れられない法廷のプロの技【弁護人編】

圧巻の「最終弁論80分」で無罪判決を勝ち取る

日本の刑事裁判の有罪確率は99%以上だ。被告人が罪を認めていれば、裁判が始まる時点でおおよその判決まで予想がつく。「判例重視」と批判されることもあるけれど、似たような事件で判決が大幅に変わったらおかしなことになってしまう。そのため、有罪判決が見込まれる裁判では、情状酌量による減刑や執行猶予付き判決を得ることなど、量刑をめぐる駆け引きが繰り広げられる。

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なかには被告人が否認する事件もある。でも無理のある主張が多く、長年裁判所に通っていても、無罪判決を聞く機会はほとんどない。証拠も動機もあり、どう考えても被告人が犯人なのに「だとしても、そうさせたのは被害者だから私は無罪です」と訴える被告人を見ていると、代理人としてその主張を通さなければならない弁護人は大変だなと思わされることも多い。

もちろん、それはそれでプロとして立派だ。しかし、ごくまれに、刑事弁護を志した人なら誰もが思うであろう「本気で検察とのガチ勝負」に挑み、成功を収めることがある。

正当防衛を主張する傷害致死事件の被告人の「強力助っ人」

僕が傍聴した中での最高峰は、いまから6年ほど前に傍聴した傷害致死事件。裁判員裁判で行われ、審理の日数は4日間だった。事件の概略は以下のようなものだ。

<自転車でコンビニに向かっていた被告人が、酒に酔った被害者に絡まれた。いったんは別れるが、自宅に戻った被告人が忘れものに気づき、再びコンビニへ。すると再び被害者ともみあいになった。被告人に殴られ地面で後頭部を打った被害者(持病のため出血しやすく止血しにくい傾向があったと後でわかった)は、救急車で運ばれたものの翌朝死亡。争点は、被告人の暴行態様。被告人の暴行と被害者の死亡との間に因果関係が認められるか否か。正当防衛が成立するか否か>

被告人の主張は正当防衛で、被害者を殴ったことは認めている。裁判で正当防衛が認められることはまれだ。しかも、今回は事件の目撃者が証人として呼ばれているとなれば、勝ち目は薄いと思われた。

では、どうするか。