宇宙用ロケットを飛行機のように地球上で用いるという計画は、各国の宇宙機関では発想できないような常識の外を行くものだ。これもスペースXが技術開発した第一段ロケットの再利用の技術があるからこそだ。今後もスペースXが引き起こすイノベーションから目が離せない状況が続くだろう。

スペースXより安い価格で打ち上げを

スペースXの躍進を前に、日本のロケット開発はどのように取り組まれているのか。

現在、日本の種子島宇宙センターから打ち上げられているロケットは「H2A」と「H2B」だ。H2Bは宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の打ち上げ用であるため、人工衛星を打ち上げるにはH2Aが用いられる。H2Aは01年の初号機打ち上げ以来、すでに40基が打ち上げられている。03年の6号機を除いて39基の打ち上げに成功しており、安定的な運用が行われている。

しかし、競争環境は厳しい。ロケットの打ち上げ競争力を測るには、官需と民需で区別をし、民需をどれだけ取り込めるかが重要な指標だが、日本のロケットは官需が主である。例えば直近の18年の打ち上げについて、H2Aロケットはすべて官需(JAXAが開発した衛星と情報収集衛星2基)だ。

これまでに民間受注の例はあるが、今はスペースXの価格破壊の影響が大きい。前述のとおり、ロケットの打ち上げ価格は公表されていないが、報道ベースでファルコン9と比較して少なくとも十億円単位で差があると言われる。

そんな中、JAXAと三菱重工業は20年度の初号機打ち上げを目指して、新型ロケットの「H3」を開発している。目下の課題は国際競争力の向上。特に打ち上げ費用について、最低価格は50億円を目指していると発表されている。この計画どおりであればスペースXと競争できる価格であると八亀氏は言う。

新型ロケット「H3」(左)と現時点で国産最大ロケット「H2B」(右)の模型。(時事通信フォト=写真)

「50億円という価格が本当に実現できるのであれば、相当な競争力があると言えます。軌道投入能力の差異があるものの、同規模のロケットであるファルコン9の打ち上げ価格は約60億~70億円と言われ、それを下回るからです」

事実、すでにH3ロケットはイギリス衛星通信サービス大手のインマルサットからの受注に成功している。ただし、競争環境の変化によっては、スペースXが価格を変更する可能性はある。

また、打ち上げ価格以外の点での競争環境について、八亀氏は次のように解説する。

「アメリカと比較したときの日本のビハインドとして、アメリカのほうが衛星の打ち上げ需要は大きいということがあります。アメリカ国内で製造した衛星を日本などの海外に運搬し、射場で打ち上げ直前の試験を行うとなれば、トータルコストは上がります。