というのも、スペースシャトルは使い切りで一度打ち上げるより何度も打ち上げを繰り返して再利用したほうがコストを抑えられるという思想で開発されたが、安全対策でメンテナンス費用が膨らんだために使い切りロケットのほうが安い、というのがそれまで常識だった。しかし、スペースXはロケット全体ではなく、第一段部分のみ再利用という方法をとることで世界中のロケット開発者に衝撃を与えた。

スペースXの月・火星に飛行する宇宙船のイメージ。(AFLO=写真)

その結果、ロケット打ち上げ価格は一般に非公開ではあるが、大型ロケットはおよそ100億円が相場だった中で、現在のファルコン9の価格は60億円台と言われる。打ち上げ成功率も高く、最も安価で安定した輸送手段とされる。

すでに述べた拡大する小型衛星市場においても、小型通信衛星網の構築を目指す「スターリンク計画」を進め、ファルコン9により大量の小型衛星の打ち上げを始めている。大型ロケットによる大量の小型衛星の打ち上げは、インドの宇宙機関も行っているが、八亀氏は「インドのPSLVロケットは、あくまでもインド宇宙研究機関が開発したロケットです。利益を追求する組織ではないため、その分安く打ち上げができるということで、予算が少ないユーザー向けにも小型衛星が多く打ち上げられています。ただ、それでもスペースXのほうが実績はあります」とスペースXの強さを解説する。

東京とニューヨークを37分で移動可能に

スペースXの最終目標は「火星移住」だ。いまだ人類は火星に足跡を残していないが、イーロン・マスク氏は具体的な計画の実行を推し進めている。火星までは距離があるため、ファルコン9よりも大型のロケットが必要だ。18年には「ファルコンヘビー」というファルコン9より大型のロケットの打ち上げに成功し、テスラの電気自動車ロードスターとスペースX製の宇宙服を着用した人形が火星遷移軌道に投入された。

スペースXのCEOであるイーロン・マスク氏(左)と同社の宇宙船で月旅行を計画するZOZO創業者の前澤友作氏(右)。(AFLO=写真)

このほか、NASAはISSへの宇宙飛行士の打ち上げについて、現在はロシアのソユーズロケットに依存しているが、スペースXはNASAのプログラムのもとで「クルー・ドラゴン」と呼ばれる宇宙船の開発を進め、すでにISSへのドッキングを含むデモ試験を無人で実施している。

さらに、16年には惑星間輸送機の詳細が発表され、「スターシップ計画」として、すでに開発が着手されている。このロケットは月や火星への飛行はもちろん、大陸間移動サービスへの利用も発表されている。大陸間移動サービスとは、地球上のあらゆる場所に1時間以内で移動ができるというもの。例えば、東京-ニューヨーク間はわずか37分で移動できるという。