NASAのロケットは存在しないのか

宇宙開発の歴史は米ソ冷戦とともに進んだ。旧ソ連は1957年、世界で初めて人工衛星「スプートニク1号」を地球周回軌道へ投入することに成功。旧西側諸国へ衝撃を与えたことは「スプートニク・ショック」と呼ばれるほどの大きなものだった。61年には旧ソ連のユーリイ・ガガーリン氏が人類で初めて地球軌道を周回し、「地球は青かった」という言葉で今に知られる。

スペースXのファルコン9。価格破壊を引き起こし大型ロケットの打ち上げ市場で世界を圧倒している。(AFLO=写真)

このように宇宙開発競争で当初は旧ソ連が有利な立場にあったが、米国のアポロ計画で風向きが変わる。62年、ケネディ大統領は「We choose go to the moon(我々は月に行くことを選択しました)」という有名な演説を行い、69年にアポロ11号が人類史上初の有人月面着陸を達成。そして、この成功の立役者がNASA(アメリカ航空宇宙局)だ。

冒頭で述べたとおり、現在最も競争力を有しているロケットは、NASAではなくスペースXのファルコン9だ。NASAは現在ロケットを打ち上げていないのか。

「NASAはオバマ政権のときに地球低軌道へのロケット開発は民間企業に任せて、打ち上げは民間企業のノウハウを生かして開発されたロケットを安く調達するという方針を発表しました」(八亀氏)

NASAはアポロ計画後の70年代以降にスペースシャトルの開発を進めたが、2度の事故と運用コストの肥大化のため、2011年にスペースシャトルの運用は中止された。一方で、NASAは国際宇宙ステーション(ISS)を運用していることから、ISSへの輸送手段の確保が必要であった。

そこで、NASAは「商業軌道輸送サービス」(COTS:Commercial Orbital Transportation Services)を06年に発表し、ISSへの物資輸送を民間企業に任せることを試みた。そして、NASAによる募集に手を挙げて、NASAが設定した審査を次々にクリアしていき、ロケット開発を進めていったのがスペースXだ。

スペースシャトルの常識をぶっ壊す

ファルコンロケットの最大の特徴は低コストであることだ。すでに米国には、ロケットのメーカーとして、ボーイングやロッキード・マーティンがあったが、スペースXは自社開発に注力し、製造費を抑えることに成功した。

さらに10年より打ち上げられている「ファルコン9」では、打ち上げられたロケットの第一段部分を直立状態で着陸させることに15年に成功。17年には回収した一段目の再使用による打ち上げを成功させた。この技術は現時点でスペースXのみが有するものであり、スペースシャトルの教訓に反して実用化させた点で画期的だ。