銀行ATMで外貨が引き出せる世界
インフレ率の低下は中銀による利下げの根拠になる。利下げが物価安定につながると主張するエルドアン大統領は7月に金融緩和に慎重なスタンスであった当時の総裁を更迭するなど、中銀への圧力を強めている。政権が物価統計を意図的に改ざんし、中銀による金融緩和を促している可能性も当然否定できない。
リラに対する不信感は一般的な人々にも深く浸透している。イスタンブールの街中を歩けば、米ドルやユーロといった主要通貨を引き出すことが出来るATMが多数設置されていることに気付く(写真)。不安定なリラ相場を受けて、銀行もまた市民の外貨ニーズに対応したサービスを提供しているわけだ。
トルコには愛国的な人々が非常に多い。だがリラを信用する人はほとんどおらず、米ドルやユーロ、金などで資産防衛を図る、いわゆる「ドル化」と呼ばれる経済現象が深刻である。これは過去幾度となくトルコが経験してきた通貨危機とハイパーインフレの歴史が人々に刻み込まれた結果を受けて生じた、非常に根深い現象だ。
トルコの金利が高い本質的な理由はここにある。通貨としての信用度が弱いために高い金利が必要となるわけだ。高成長=高金利通貨として日本でもてはやされたトルコリラであるが、高金利である理由はトルコ経済が持つ不安定性にあるということをもう一度認識するべきだろう。
常に暴落するリスクを抱えている
なお今後のトルコ軍の展開や米国の動きいかんでは、リラ安に拍車がかかることになる。米国の2020年の次期大統領選挙が近づけば近づくほど、トランプ大統領は中東政策に躍起になる。シリアやイランとの関係でトルコに対する圧力を強化することも十分考えられる。その時にリラは再び暴落するだろう。有権者の不満解消に躍起なエルドアン政権であるが、通貨不安を自らの手で呼び覚ましている感は否めない。すでにリラはロンドン市場で枯渇しており、取引に厚みが無い。そのため一度売りを浴びせられると、相場の下げが止まらない可能性が高い。
要するにエルドアン政権が続く限り、リラ相場が根本的に上昇する展望など描けないということである。それどころか、エルドアン政権の失政や米国のスタンス次第では、リラは常に暴落するリスクを抱えている。リラが再び大暴落しないか、そして新興国の連鎖的な通貨不安を再燃させないか、今後も動向に注意していきたい。