フランクのことを盲目的に信じ込んでいた

「僕に何がわかります?『彼はビジネスマンだからこういうことに詳しいのだろう』と思うしかないですよ」とビリー。

だが、早くからフランクの胡散臭さに気づいていた1人が、当時の妻クリスティだ。

「ビリーは他人を悪く見ることが大嫌いで、自分が相手を大切に扱えば、相手も自分を大切に扱ってくれるはずと考えるタイプなんです。だからフランクが本当に誠実な人間かどうかなんて調べる気もなかったんだと思います。この男が自分を傷つけるようなことをするわけがないと盲目的に信じ込んでいたんです。でも、私たちが普通の飛行機で移動しているのに、フランクはいつもプライベートジェットだったり。競走馬で儲けが出たらフランクが独り占め。馬が故障したら費用はビリー持ち。ビリーに『あの男は信用できない。とてもあなたのためを思って動いているとは思えない』って言ったんです。そうしたらビリーは、『おいおい、君よりずっと長い付き合いがあるんだよ。彼の悪口を言うなよ』と」

84年、突如、税務当局から550万ドル(約5億5000万円)の追徴金通知が送られてきた。税金の問題は任せておけというフランクの言葉を信じ込んでいたビリーには寝耳に水。税務当局とのトラブルに加え、フランクが設定していた節税策が税逃れの疑いで捜査対象になり、事態は余計にややこしくなった。

ようやく目が覚めたビリーは、自ら実態の調査に乗り出し、胡散臭い会社や投資の失敗、詐欺などが次々に明るみに出て、フランクにはめられていたことが判明する。

顧問弁護士までグルになっていた

86年発表のアルバム『ザ・ブリッジ』に、フランクへの怒りをぶつけた『ゲッティング・クローサー』(Getting Closer)という曲がある。

「あの歌詞をフランクが見たら相当ビクビクしたはずですよ。何しろその後に待ち受けていた訴訟を予告した歌でしたからね。『まだ何ひとつ手をつけてないけれど、すぐそっちに行くからな』っていう内容でね」

真実を探し求めてきた
僕は無実だ
詐欺師どもとその手先たち
奴らにカモにされたんだ
どこぞの“センセイ”たちにボラれたものは
言い尽くせない
契約だから守ったけれど
夢はあきらめなかった

実際、翌89年、3000万ドルを着服していた疑いでフランクを提訴した。3000万ドルの賠償に加え、懲罰的損害賠償として6000万ドルも請求した。つまり円換算で100億円以上の途方もない額だ。歌手が元マネジャーに賠償を求めた訴訟としては最高額だった。

フランクが食いつぶした財産をまた一から作っていかなければならないと悟り、ビリーの怒りは頂点に達した。つまりは毎月毎月ツアーをこなすのだから、まもなく4歳の誕生日を迎えようとしていた愛娘のアレクサと離れ離れになるわけだ。フランクのずさんなマネジメントの件だけでもうんざりなのに、味方のはずの顧問弁護士まで告訴せざるを得ない状況に陥っていた。

法律事務所もフランクの不正に目をつぶっていたからだ。それもそのはずで、顧問契約(1981年の顧問契約料は75万ドル以上)を継続してもらう見返りとして、フランクの経営する企業にリベートを渡していたのだ。フランクがビリーの資金30万ドルをCBS幹部にこっそり貸し付けた際にも、法律事務所は見て見ぬふりをしていた。