離婚後は「元妻の実弟」を金庫番に
ところがそんなビリーの気持ちとは裏腹に、エリザベスとの関係は悪化するばかり。名声と信用とカネの分け前はきっちりもらう権利があると主張するエリザベスの考えを実感する場面もあった。現に、彼女は何かあったら財産を半々に分け合うために、あらゆる機会を見逃さなかった。ビリーが締結する契約の条件に始まり、彼自身の社会保障内容に至るまで、いざというときの分け前が変わってくるからだ。
そのうえ、エリザベスがビリーのマネジメントの手数料まで取り始め、資産の半分を自分のものにしたばかりか、売り上げのかなりの部分も持っていく状態になってようやくビリーも腹を決め、70年代末、ついにエリザベスとの離婚に踏み切る。ビリーはマネジャー兼金庫番をエリザベスの実弟フランクに任せる。
「エリザベスと別れた後で義理の弟を金庫番に雇ったのは不思議だとよく言われました。でも彼は僕のことを気遣って、実姉に反対する立場を取ってくれたんです。後から思えば馬鹿な判断だったんですが」
カジノ、競馬、投資に使い込まれたカネ
82年にビリーは大きなバイク事故を起こし、入院する。ある日、エリザベスが弁護士とともに病室に訪れ、書類を差し出してサインしてくれという。ビリーによれば、すべてをエリザベスに譲渡し、彼女の管理下に置くことを求める内容だった。
「『ふざけるな、今、僕は入院しているんだ。うわべだけ悲しそうな表情を浮かべておきながら、僕から徹底的に搾り取るような契約書を持ってきているじゃないか。弁護士と連れ立ってくれば、僕がすべての権利を明け渡すとでも思っているのか』って言ってやったんです。僕だって底抜けの馬鹿じゃない。僕が知識の面で彼女にはかないっこないから、僕が全部の権利を明け渡すとでも思ったんでしょうね。こんな仕打ち、入院している患者にしませんよ、普通は。あいた口がふさがらなかったですね」
エリザベスには愛想を尽かしたが、その弟フランクには恩義を感じていた。ところが、そのフランクはエリザベス以上にとんでもない輩だった。ビリーのカネでカジノや競馬にのめり込んでいて、サラブレッド数頭のオーナーにもなっていたのだが、ビリーは使い込みに気づけなかった。しかも、ビリーに節税策として石油やガス、不動産への投資を持ちかけ、裏で儲けていたのもフランクだ。