ビリー「僕は人を信用しやすいんです」

のちにビリーはそのフランクに騙されていたことを知り、愕然とする。

「僕は人を信用しやすいんです。疑うことよりも信頼を取ってしまうんです。そういう性格なんですよ。でもこの歳になってようやく世の中を斜に構えて見るようになりました」

このときビリー、40歳。

なるほど、名曲『素顔のままで』では

いつになったら信じてもらえるだろう
僕が君を信じているように

と切々と問いかけている。自分が信じれば、相手も信じてくれるはず。そう考えるのがビリーなのだ。

だが、それゆえに、彼の人生を見ると、あきれるほど騙され続けている。76年に妻のエリザベスがマネジャーに就任し、公私ともにビリーの手綱を握るようになる。ビジネス交渉に長けていたエリザベスは大手レコード会社を相手に好条件を見事に引き出してビリーの活躍を支えるなど、実に頼もしい存在だった。エリザベスにマネジャーを任せてから実現した最大の収穫を挙げるとすれば、コロムビア・レコードの新たなトップ、ウォルター・イェットニーコフとのパイプを作ったことだろう。

強権を振るう妻も「僕にとっては普通の女」

だが、ビリーの躍進と歩調を合わせるように強権を振るうようになって、ビリーに疎まれるようになったことは前回の記事のとおりだ。やがて2人の関係がギクシャクし始める。ビリーはロックスターのように振る舞うことはどうしてもできなかったが、逆にエリザベスはそういう生活が肌に合っていたようだ。

周囲がエリザベスを批判する陰口をきくようになっても、ビリーはエリザベスを信じたい気持ちが残っていた。

『シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン』で

彼女は出まかせの嘘で君からの信用を失うこともある
君に見せたいものしか見せようとしない

と批判的に書いてはいるが、それでも

僕にとってはいつだって普通の女なんだ

と擁護している。ここでいう「君」とはスタッフなど周囲の人々で、「僕」がビリーを指していると本人が説明している。つまり、周りには悪女に見せても、僕にはごく普通の女と擁護しているのだ。