自動車事故ではないが、認知症の高齢者が線路に立ち入ってはねられて電車が止まり、鉄道会社が妻と長男に賠償請求を行ったケースがあった。事件は最高裁まで争われ、同居妻も高齢で要介護1だったこと、長男は別居していたことから、監督義務者ではないとされた。逆に言えば、若くて普段から介護をしていれば、監督義務者と認められる可能性がある。監督義務者=賠償責任者というわけではないが、その責任の有無の線引きは画一的でなく、各事案ごとに判断されるという。
「法律には『法は不可能を強いるものではない』という考え方があります。たとえば検査を受けさせて公的機関に相談し必要な措置を講ずるなどの手を尽くしたうえで起きた事故なら、監督の義務を果たしていたと考えられるのでは」
刑事と民事で逆の主張をした理由
ちなみに、幼い子どもが起こした事故も基本は同じ。総合考慮で親が責任を問われることもある。ケースによるが、「子が10歳くらいまでは親の責任になりやすい」と言う。
被害者側としては、お金も持っていない認知症高齢者や子どもに賠償請求をするより、保護者の責任を追及したほうがお金を取りやすい。
「事故を起こした未成年の子の親が、子の罪を軽くするために『まともな教育を受けさせてやれなかった』と親の責任を前面に出して情状酌量を主張した同じ事件の民事裁判で、親が自分の監督義務を免れるため、『息子は一人前』と主張した事例もあります」
泣くに泣けない事態になる前に、親としっかり話し合いたいところだ。
(コメンテーター=NEXTi法律会計事務所 代表弁護士 萩生田 彩 図版作成=大橋昭一)