経営者としての私をつくってくれた稲盛哲学。その教えを実践すること、そして後の世代に引き継いでいくことが恩返しだと思っています。幸い最近は若い経営者の中にも、稲盛さんのように心の持ち方を重視し、自らの手で社会的課題を解決しようという人が増えてきていると感じます。

渋沢栄一『論語と算盤』は明治の大事業家による語りおろしで、当時の大ベストセラー。守屋淳訳『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)がわかりやすいでしょう。

ここで説かれているのは、「商売をする者は心の持ち方と事業、両方をしっかりしなければいけない」ということです。

江戸時代には武士はずっと論語(道徳)を学んでいたわけですが、時代が変わり、武士という職業・階級はなくなってしまいました。「これからは武士も算盤(事業)をやらなければだめだ」となったわけです。さらに渋沢栄一は「商人も算盤を使うだけでなく、論語を読まなければだめだ」と、商道徳の大事さを説いています。

究極的には「利他」を選ぶ

「LIFULLは『利他』を社是としていますが、上場企業である以上、利益を上げていかなくてはならない。これは矛盾しませんか」。セミナーなどでよく受ける質問です。そういうとき、私はこの本を引き合いに出して説明します。

いくら利他を掲げても、経営者が事業に失敗してしまったら、従業員は仕事を失い、家族を養うこともできません。それでは人を幸せにするどころではないでしょう。だから私は「『論語』と『算盤』を高い次元で両立させることが経営だと思っています」と断言します。

ただ、それでもどちらかを選ばなければならない、という究極の判断を迫られたとしたら、私は「論語」すなわち「利他」を選びます。そもそも自分は何のために事業を始めたのか。そう自問すれば、答えは明らかだからです。

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(構成=久保田正志 撮影=永井 浩、若杉憲司 写真=読売新聞/AFLO、毎日新聞社/AFLO)