事業を通じてよりよい未来をつくり出すうえで、何を自分が解決すべき社会課題とすべきなのか。これについて示唆を受けたのが、リフキン『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)です。ここで著者は「テクノロジーの進歩により、モノやサービスを生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づき、企業の利益は消失して、資本主義に代わって共有型経済が広がってゆく」と説きます。

私たちは「住まい」を扱う事業を行っていますが、人間の暮らしの中で最も限界費用が高いのが住まいです。そこで「場所の制約からの解放」をミッションとして、2019年から新しいプロジェクトを始めました。個人が住まいを所有するのではなく、ごく低額の費用さえ払えば、世界のどこでも自由に住め、そこで仕事もできるという社会を構築する試みです。私自身、書物やさまざまな人の知恵を借りながら、「あるべき未来」を追求しているのです。

▼新たな視点で世界をとらえる歴史書
数万年以上のスパンで見なければ今の自分の立ち位置もわからない

100年後を見据えたビジョン

経営者にとって重要なのは、50年後、100年後の未来を考え、「100年後にどういう社会をつくっていくべきか」というビジョンを持ち、高い視座から事業を発展させていくことだと考えます。

竹村真一氏が中心となって開発した「触れる地球」。(読売新聞/AFLO=写真)

ハラリ『サピエンス全史』(河出書房新社)は、人類が誕生した7万~8万年前まで遡り、「農業」「貨幣」など、人類史上でどんな革命が起き、それが人類にどのような影響を及ぼしたのかを論じます。歴史の解釈は人により様々で、本書の解釈も著者独特のものですが、マクロな視点から今の世界のありようを考えさせられる良書です。

同じ著者による『ホモ・デウス』(河出書房新社)は人類の未来について考察した本で、『サピエンス全史』と合わせて1つのシリーズのようになっています。デウスとはギリシャ神話の最高神ゼウスのことで、著者は本書で「人類はこれから神の領域に入っていく」と説いています。

私は「100年後の未来社会はどうあるべきかを知るために、古今東西の叡智を集めよう」と考え、2014年に「ネクストウィズダムファウンデーション」を創設しました。かつて坂本龍馬らが集った寺田屋のように、志士たちが集まって国を憂い、議論をする場をつくろうと始めたものです。始めた時点では100年後の世界など想像もつきませんでしたが、6年間活動を続け、様々な方にお話をうかがうなかで、最初はぼんやりしていたイメージが少しずつ立体的になってきました。