※本稿は、リック・ハンソン『脳を鍛えてブッダになる52の方法』(サンガ文庫)の一部を再編集したものです

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脳の癖やメカニズムを理解すれば、それを上手にコントロールできるようになる訓練は可能だ(写真はイメージです)。

脳には「悪い方向に考える癖」がある

脳には悪い方向に考えるバイアスが組み込まれていると科学者たちは信じています。進化の中で私たちの祖先は棒(危険)を避け、人参(食料)を追い求める生活を何百万年も続けてきましたが、生き延びるためには棒(危険)を避けることの方がより差し迫った問題だったのです。

悪い方向に考えるという脳のバイアスは様々な所で観察することができます。例えば、研究により次のようなことが明らかにされています。

●脳は同じ強さであっても好ましい刺激より好ましくない刺激に強く反応します。(*1)●人間を含めて動物は通常楽しみより痛みを早く学びます(*2)。1度まれると2度目には臆病になるということわざがあります。
●痛ましい経験は楽しい経験よりも記憶に残りやすいとされています。(*1)

脳は嫌な経験に対してはマジックテープのように密着しますが、うれしい経験に対してはテフロン加工のように軽く触れるだけです。このような脳の癖が、潜在的な記憶や感情、期待、信条、嗜好、気分に影を落として、どんどん悪い方向へ向かわせます。

これは公平ではありません。おそらく人生の出来事の大半は好ましいことです。あるいは少なくとも中立です。良いことを取り込むことは、大変良いことです——大人にとっても、子供にとっても。回復力が増し、自信がつき、幸せになることができます。

自分の心を「一時停止」してみる訓練

私は、自分をコントロールする訓練をしている子供を治療することがあります。その際、時々「ブレーキのない自転車に乗りたいですか」と尋ねます。どんなにやんちゃな子であっても、返ってくる答えはいつもノーです。ブレーキがなければ、自転車の運転は退屈か痛い目に合うかのどちらかにしかならないと、子供たちは分かっているからです。ブレーキがあるからこそ、スピードを出して楽しむことができるのです。

人生でも同じです。職場で批判にさらされたり、パートナーの気分を害したり、悪口を言いたいという衝動にかられたり、後で高くつくにちがいない願望を満たすチャンスに行き当たってしまったときには、しばしブレーキをかけて「一時停止」する能力を身に付けておく必要があります。さもないと、なんらかの形で失態を犯す可能性が高くなります。