食中毒を防ぐ発色剤がゆがんだ報道で誤解されている

ハムやソーセージなど加工肉によく使われる発色剤の亜硝酸塩は、色をよくし肉の臭みを消します。さらに、ボツリヌス菌の増殖抑制効果がある、とされています。ボツリヌス菌は自然界に普通にいる菌ですが、非常に強い毒素を作り食べると死亡する場合があります。

ハムやソーセージなどの加工肉は、国際がん研究機関(IARC)からグループ1(人に発がん性がある)に分類されているため、「発色剤の亜硝酸塩によりがんになる」という情報が雑誌などにしばしば掲載されます。しかし、これも間違い。たしかに、欧米での調査研究で、加工肉の摂取量の多い人たちでは大腸がんのリスクが高くなっていますが、日本人の調査では、がんリスクの上昇はみられません。というのも、日本人の加工肉摂取量は、欧米に比べれば非常に少ないのです。

IARCは、加工肉に関する見解をしめすと同時に、牛肉や豚肉、羊の肉など、国際的には「赤肉」と呼ばれる肉についても、グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類しました。これに対して日本の国立がん研究センターは、日本人での調査結果を基に、「大腸がんの発生に関して、日本人の平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響は無いか、あっても、小さい」とする見解を示しています。

そもそもIARCは、加工肉と肉、両方のがんにつながる原因として、焼いたり燻製したりするときにできる発がん物質や、肉の消化の際に体内でできる物質などを挙げています。添加物については一言も触れていません。

しかも、野菜を食べると野菜に含まれる成分の一定量が体内で、亜硝酸塩と同じ成分になり、その量は発色剤として食べる量よりもはるかに多い、と考えられています。

なのに、日本の雑誌やウェブメディアの多くは、IARCの出した原文を読まず、都合の悪い野菜からの摂取は無視して、「発色剤のせいでがんになる」と報じるのです。これでは、消費者がハム・ソーセージを怖がるようになってしまうのも無理はありません。

一度下がったイメージはなかなか覆せない

悪名高い“化学調味料”も、情報にゆがめられ誤解されています。

昆布などに多く含まれるアミノ酸の一種、グルタミン酸に、固形化するためナトリウムを結合させたものが、うま味の素の「味の素」として1908年、売り出されました。体の中に入るとグルタミン酸となります。

戦後、NHKが「味の素」を報じる際に商品名を出せないことから、「化学調味料」と名付けました。当時は、化学がバラ色のイメージを振りまいていた時代で、味の素も大人気でした。

ところが、1968年、アメリカの医師が、グルタミン酸ナトリウムを大量に食べたことが原因で頭痛や顔のほてりなど生ずる症例があったとして、「中華料理店シンドローム」と名付けて学術誌に報告したのです。

これを契機に、グルタミン酸ナトリウム=化学調味料の評判は一気に下降。動物の腹腔に大量に注射して影響をみるような無理な実験で出た症状も、グルタミン酸ナトリウムは悪い、とする根拠となってしまいました。

その後、多くの実験・研究が行われ、1987年にはFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が安全だと認め、EUやアメリカ食品医薬品局(FDA)なども同様の判断を示しています。

グルタミン酸ナトリウムの摂取が味覚障害につながっている、という説もありますが、科学的根拠はしめされません。そもそも、人の体重の2%はグルタミン酸であり、トマトやチーズ、それに母乳にも大量に含まれています。なのに、添加物としてのグルタミン酸ナトリウムのみが味覚障害の原因に、というのは、科学的にはあり得ません。

現在では、味の素社だけでなく多くの企業が、グルタミン酸ナトリウムやほかのうま味となる物質を用いて調味料を製造しており、化学調味料ではなく「うま味調味料」と総称しています。加工食品に原材料として用いられた場合、調味料(アミノ酸等)として表示されています。