「牛乳は超危険」に科学的根拠はない
乳製品も「健康に悪い」とされることがありますが、科学的根拠はありません。インターネットで検索すると「牛乳は超危険」などと不安を煽るサイトが見つかりますが、アレルギーや乳糖不耐症の人を除く大多数の人にとって、乳製品はカルシウム源として有用な食品です。
その他、前著『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(※2)では、乳製品の摂取が乳がんリスクを下げるという研究を紹介しましたので、本書では別の研究を紹介しましょう。
(※2)名取宏著『新装版「ニセ医学」に騙されないために』内外出版社
21か国における35~70歳の成人、約13.6万人の食生活を調べた上で9.1年間フォローアップし、死亡と心血管疾患の数を数える大規模なコホート研究が行われたところ、乳製品を多く摂取している人は、そうでない人と比べて20%弱くらい死亡も心血管疾患も少なかったのです(※3)。牛乳だけでも同様の傾向が見られました。この研究によると、牛乳以外の乳製品なら、バターよりもヨーグルトのほうがよさそうです。
(※3)Dehghan M et al., Association of dairy Intake with cardiovascular disease and mortality in 21 countries from five continents(PURE):a prospective cohort study., Lancet. 2018 Nov 24;392(10161):2288-2297.
ただ、ヨーグルトばかりを食べるのもフードファディズムです。多くの人を対象に長期間調査した研究ではありますが、海外の研究なので日本人にどのくらい適用できるかはわかりませんし、各個人に当てはまるかどうかもわかりません。今まで乳製品をとっていなければ「たまにヨーグルトも食べるといいかも」くらいに思っていただければ、ちょうどいいと思います。
不正確な情報で無意味な我慢をするのは人生の大損
食の好みは大切です。健康・長寿がいいといっても、人生が楽しくなければ意味がありません。健康のために嫌いなものを我慢して食べ、反対に健康のために好きなものを我慢して食べないのはおすすめしません。少しくらい健康に悪いとされる食品でも、持病などの理由で医師に止められていないのなら、量や頻度に気をつけて食べてもいいでしょう。
例えばマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸は心疾患のリスクを高めるので規制されている国もありますが、日本ではトランス脂肪酸の摂取量は多くありません。極端に外食が多い、揚げ物をよく食べる人でない限り、さほど注意する必要はありません。まして、不正確な情報を信じて、健康に悪くない好きな食品を我慢するなんてことになったら人生の大損です。
テレビや雑誌やインターネットにあふれる「○○という食品が体によい/悪い」という情報は、9割方は眉に唾を付けて聞き、自分の好みを優先させるくらいがちょうどいいでしょう。