特定の食品で病気が治ると主張する「フードファディズム」
こういう特定の食品が様々な病気に効くという情報は、次から次に出てきます。たぶん、本書が出版される頃には酢納豆は飽きられ、別の何かが流行していることでしょう。
酢納豆で高血圧や糖尿病などの様々な病気が治るという主張は、典型的な「フードファディズム」です。フードファディズムとは、「食品や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価したり信奉すること」(※1)。ちなみに「fad(ファッド)」というのは、英語で「一時的な熱狂」という意味です。なんと的を射たネーミングでしょうか。
(※1)高橋久仁子著『「食べもの神話」の落とし穴:巷にはびこるフードファディズム』講談社
特定の食品が健康や病気に与える影響を評価するのは、かなり難しいことです。特に長期的な影響を調べるには、当然ですが、長い時間がかかります。酢納豆のように急に流行した食品(食べ方)については、何もわかっていないと断言できます。
ついでに言えば、食品(安全が確認されている食べ物)が健康や病気に与える影響は、もしあったとしても、多くの人を長い年月をかけて観察した研究でやっと差が出るか出ないかの小さなものでしかないのが通常です。
食品が健康に与える影響を知るのに体験談は不向き
にもかかわらず、インターネットや健康雑誌では驚くような効能効果がうたわれています。普通の食品ならセーフのようですが、これが健康食品の広告だったら法律的に完全にアウト。
効能効果の根拠は、たいてい体験談か自称専門家の推薦です。つまり、芸能人の誰だれが好んで食べて効果を実感しているとか、ナントカクリニックの院長が大絶賛しているとか。憧れの有名人が食べて体の調子がよくなったら、自分も食べてみたいと思うのは自然な感情でしょう。しかし、食品が健康に与える影響を評価するには、体験談は不向きです。
タバコを吸うと肺がんになりやすいことは、ほとんどの方に納得してもらえるでしょう。しかし、「タバコを吸っていても肺がんにならなかった」という体験談も、「タバコを吸わなくても肺がんになった」という体験談も、探せばいくらでもあります。「これを食べたら体の調子がよくなった」という体験談も探せば出てくるわけです。
けれども、体調がよくなった理由が食品にあるとは限りません。たまたま、その食品をとったときに体の調子がよくなっただけかもしれません。体調がよくなるはずだという期待や思い込みによって、体調がよくなったかのように感じただけかもしれません。