システムを提供する会社のトップの意見として驚かれるかもしれませんが、メールはけっして万能のコミュニケーションツールではないと考えています。

<strong>伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)社長 奥田陽一</strong>●1947年、大阪府生まれ。神戸大学経営学部卒後、伊藤忠商事入社。78年ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。副社長、伊藤忠テクノサイエンス社長を経て現職。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)社長 奥田陽一●1947年、大阪府生まれ。神戸大学経営学部卒後、伊藤忠商事入社。78年ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。副社長、伊藤忠テクノサイエンス社長を経て現職。

会議の日時など、シンプルな情報の連絡には、メールが大いに効果を発揮します。一方、複雑な問題でやりとりをすると、途端に誤解が生まれやすくなります。トラブルに発展すれば火消しに時間が取られます。誤解を防ぐために長い文章で説明しようとすると、メール本来の簡便さが失われてしまう。効率化のためのツールであるはずなのに、使い方を間違えるとかえって仕事が遅くなるのです。

デリケートな問題の場合はメールだけでなく、私はなるべく電話や直接会うなどしてコミュニケーションを取り、内容の確認や追加説明を行っています。デジタルで足りない部分は、アナログと合わせ技で補う。これが基本です。

毎月、私は社内のイントラ上で「拝啓、奥田です」というコラムを掲載して、社員にメッセージを送っていますが、これもデジタルだけでは不十分だと思っています。そこに書いた内容は社内の成功事例発表会など、社員と直に話せる場でもう一度説明しています。

アナログの活用という意味では、毛筆もおもしろいかもしれません。実際、「挑戦」「飛躍」「進化」など、私はその年度の経営方針を集約したスローガンを毛筆で書いて額に飾っています。それを広報部が冗談半分で、全社キックオフミーティングのプログラムの裏に印刷して配ったところ、社員が自然発生的にIDホルダーに入れていつも身につけるようになりました。

ちなみに今年度のスローガンは「変革」。書き上げるまでに、約1カ月、50枚練習しました。字は手間をかけるほど、思いが伝わります。おそらく同じスローガンでも、ワープロのフォントでつくって配っていたら、社員が大事に持ち歩くこともなかったでしょう。

書道自体は趣味で始めたので、最初からデジタルの足りない部分をフォローする意図があったわけではありません。ただ、結果として自分の思いが浸透し、コミュニケーションがスムーズになったことも確かです。誤解が生まれがちなメールも、アナログとうまく併用することで本来のメリットが発揮できるのです。