メモの習慣を身につけたのは、入社3年目です。本社の国内旅行部で宿泊プランなどの商品づくりを担当し、品質を維持したまま安く泊まれる「旅路クーポン」という商品を企画しました。ただ、広告代理店が持ってきたコピーがピンとこないのです。けっきょく自分でコピーを考えることにしましたが、そのとき参考にしたのが電車の中吊り広告でした。

<strong>JTB社長 田川博己</strong>●1948年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒後、日本交通公社(現JTB)入社。取締役営業企画部長、専務などを経て現職。異動のたびに後任者に丁寧なメモを残してきた。
JTB社長 田川博己●1948年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒後、日本交通公社(現JTB)入社。取締役営業企画部長、専務などを経て現職。異動のたびに後任者に丁寧なメモを残してきた。

中吊り広告はインパクトのあるコピーの宝庫です。ところが、通常は2日で入れ替わってしまう。ですからおもしろいと感じた言い回しや表現があると、電車を降りてすぐにメモするようにしました。それらをヒントにつくったのが、「泊って食べてポッキリ5000円」「旅情、満腹、5000円」といったコピーです。

コピーに限らず、企画立案にメモは欠かせません。優れた企画とは、アイデアマンが才能によって生み出すものではなく、情報収集の過程で生まれるもの。ヒントとなる材料はどこにでも転がっていて、それらをいかにキャッチするかが勝負です。ただ、頭の中だけで情報を蓄積して整理するのは難しい。そこでメモが役に立つわけです。

スケジュールに余裕を持たせて、メモを取る=情報収集の時間をつくることも心がけていました。宿泊プランの企画担当者として、私が回った旅館の数は全国で数百軒。現地からとんぼ帰りではつまらないので、空いた時間に商店街を歩いて情報収集できるように予定を組みました。いまでも出張時は予定を詰め込みすぎないように気をつけて、次の用事まで余裕があればタウンウオッチングをします。そこで集めた情報はメモに落とし込み、地域交流ビジネスの関連部署に渡すようにしています。

余裕を持って予定を組むやり方は添乗員時代に学びました。旅行には、飛行機の遅延やお客様のご病気など突然のスケジュール変更がつきものです。これらの不測の事態にも、フリータイムなどバッファとなる時間帯を組み込んでおけば、対応しやすくなります。何ごとも起きなければその時間帯を情報収集に充てればいい。

忙しくて情報収集したり物事を考える暇がないと嘆く人もいますが、スケジュールの工夫次第で、こうした時間をつくり出すことも難しくないはずです。