人間は失敗する動物だ。木造住宅トップブランドのわが社といえど、不具合や連絡不徹底によってお客様の信頼がクレームに転じるケースがある。お客様だけでなく近隣からのものも含めると、“苦情ゼロ”は難しい。
対応の基本は2つある。まず、1%でも原因がわが社にあるなら、一も二もなくお詫びする。2つ目はお客様と徹底的にコミュニケートして解決の糸口を探ることだ。原因を探っていくと、営業マンはたいがい「私はちゃんと説明した」と言う。しかし説明だけではダメだ。説明し、理解してもらい、納得してもらい、その納得に基づいて行動を起こすのが我々の仕事だ。誠意と努力と勇気の3つがあれば、お客様は心を開き、たいがいの問題は解決するものだ。
ただし、あまりに感情的で論理が通じないお客様には、互いに弁護士を立て、第三者の判断を仰ぐこともある。お詫びは自分自身と本音で向き合い、自分が間違っているかどうか納得したうえでするもの。中途半端な気持ちで詫びても相手に通じないし、表面だけの解決は絶対すべきではない。
米国住友林業社長を務めていた41歳の頃、木材の価格が大暴落した。個々のサプライヤーとの契約解除と違約金の支払いに追われたが、その中に家族で営んでいる零細の伐採業者がいた。敬虔なクリスチャンで、詫びる私の申し出を快諾し、違約金20万ドルの受け取りを固辞した。
ところが、いきなり訴訟になった。ある弁護士が「200万ドル取れる」と焚き付けたのだ。
納得できなかった。何も悪いことはしていないのだ。「話が違う」と問い質しても、「私はアメリカ国旗のために戦う」。僕も態度を変えた。住友のために徹底抗戦を決めた。しかし、陪審員たちは法廷で涙を流す業者の妻に同情し、“大会社=有罪”に傾く。「20万ドル程度で裁判なんかするな」と本社からの援護はない。お袋に電話し、私財をかき集めて訴訟費用に充て、毎日法律を猛勉強した。ストレスで頭髪がごっそり抜けた。後は勝訴した。ただ、裁判官が「法律上はあなたが正しいが、法律がすべてではない」と言い添えたのが印象的だった。台所事情の苦しい相手を思いやる解決法がほかになかったのか、と今でも思い返すことがある。