2度のクビを経て得たもの

私は大学を卒業後8年間のサラリーマン生活を経てコンサルティング会社に転職した。コンサルティング会社では、学ぶことが多く、あともう1年いればさらに世の中での付加価値が増すはずだ、と考えて結果的に15年以上も在職することになった。クライアントにも見えない答えに果敢に挑戦する若手の才能と能力に驚かされることがしばしばだった。答えの見えない不確実な世界で問題解決を行うにあたって、チームマネジメントの考え方も、以前のサラリーマン時代から180度の転換を迫られた。

その後は、郵政民営化を機に日本郵政株式会社の執行側に転じたが、政権交代を契機に最初のクビを経験することになった。民営化推進部隊の中心にいたことから、当時民営化に反対していた政権に代わったことで、これはいつクビになっても当然と考えていた。

もしもクビにならず、そのまま日本郵政にいてもよいと言われたら、自分の進めてきた民営化に向けた努力はさほどのものではなかったとの評価だったと感じ、大いに気落ちしたことだろう。政権交代で株主が民営化推進から民営化反対に転じたわけだが、こちらは民営化推進の立場を貫いていた。

このとき、スタンスを維持することがいかに大事なのか再認識した。後出しじゃんけんなど、この場合はありえない選択だった。その後は金融機関のCOOとして執行に加わったが、1年でその金融機関を所有していたファンドのスキームが問題となり、新たなオーナーに代わったことで2度目のクビを経験することになった。

自分のスタンスに反することはしない

クビも悪くはないと感じたのもこの頃だ。自分のスタンスを変えないで、周辺環境が変わったことで「辞めてほしい」と言われることは、むしろ自らのスタンスを自分で納得するうえでとても重要だった。スタンスを変えずにいると、新たな機会も訪れる。

宇田左近著『インディペンデント・シンキング』(KADOKAWA)

長いものには巻かれず、火中の栗は自ら拾って食い、自分のスタンスに反することはしない。このスタンスを貫くためには自分なりの行動規範を持つことが必要だ。それだけでは到底世を渡れそうにないと思えるかもしれないが、そんなことはまったくない。

簡単なことだ。日頃から「外でも役立つか」という視点で共通価値を高めるための学びを継続すればよい。仕事においても常に刺激の中に身を置き続けること、新たな挑戦を続けることも役に立つ。それは同窓会ヒーローの陥る無能化スパイラルとは別世界のはずだ。

さて、2度のクビのあとは、役所や大企業のようなヒエラルキー上位の組織が「円の中心」だとするといわば「遠心力のついたキャリア」を重ねることになった。そしてこのような環境で働き学び続けられるということがいかに恵まれているかを再認識することになった。私は、同窓会ヒーローにはなり損ねたが、そこに一片の後悔もない。

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