「死を望ましい形で」という考え方を認める

こうした延命治療を無意味なものと判断して中止し、人間としての尊厳を保ちながら自然な死を迎える。これが「尊厳死」だ。断っておくが、毒物の投与によって積極的に死に至らせる「安楽死」とは違う。

日本老年医学会が2012年に胃瘻をやめるための指針をまとめ、日本救急医学会も2007年に一定の条件下での人工呼吸器などの生命維持装置の取り外しを提言している。

日本老年医学会や日本救急医学会は、臨床現場の医師たちの「体が死のうとしているのに生命維持装置を使って無理に引き留めている状態は良くない」「死を望ましい形で迎えさせてあげたい」という考え方を肯定的に捉え、指針や提言をまとめた。

尊厳死を推し進めているのが、会員数約11万人の一般社団法人「日本尊厳死協会」だ。会員は「尊厳死の宣言書」(リビング・ウイル)にサインする。この宣言書は、延命治療を拒否するとともに痛みを取り除く治療を進めてもらえるよう求めている。宣言書は協会が保管して会員が終末期に至ったときに主治医に示される。会員の9割以上が宣言書通りに亡くなっているという。

「尊厳死の宣言書」があっても医師は免責されない

しかしながら日本尊厳死協会のこの宣言書があっても、延命措置を中止した医師が殺人罪などに問われる可能性はなくならない。医師が免責される保証はない。尊厳死を認める法律があれば、間違いなく医師は刑事上や行政上の責任を追及されることがなくなる。医師の判断で蘇生処置の適用を判断する救急隊員にとっても、法律は必須である。

協会は2005年6月、14万人の署名を集め、尊厳死を合法的に認めるよう法制化を国会に求めた。この時、超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」も発足し、2012年3月には同議員連盟による法案が公表された。

法案は患者本人の意思表示が明白であり、医師が回復の見込みがないと判断すれば、延命治療をせずに死が選択でき、延命治療を途中で中止することもできる、という内容だった。