医師で医療ジャーナリストの富家孝氏(72歳)は、今年6月、「ステージT2、大きさ1センチの前立腺がん」という診断を受けた。だが、当面は手術をせずに、放置することを決めたという。その理由とは――。
できる部位によって性質も進行度も違う
「やはり、がんですね。ステージはT2で、大きさは1センチほどです」
今年の6月15日、ダイナミックMRI(磁気共鳴画像装置)による検査で、私はこう告げられました。いわゆる確定診断によるがん宣告です。がん宣告された部位は前立腺。前立腺がんは、このところ急増しているがんで、胃がん、大腸がん、肺がんに次いで、現在、第4位となっています。
普通、前立腺がんの確定診断をするには、直腸あるいは会陰部から針を刺入して細胞を採集して調べる「生検」を行いますが、最近は、MRIが進歩したダイナミックMRIで、体を傷つけずに診断することが可能になりました。それで、私はこちらを選んだのです。生検より、リスクが少ないからです。
ステージT2というのは、がんの進行度の分類法である「TNM分類」のT(原病巣)が、2であるということです。T1だと初期がん、T2はそれが進んだ状態、T3になるとがんは浸潤していて、T4になるとリンパ節や骨などに転移しています。つまり、私のがんは前立腺内にとどまっている状態で、1センチ大というわけでした。
なぜ動揺せずにすんだのか
がん宣告を受けると、みなさん、動揺します。気を落とします。しかし、私の場合は、それはまったくなく、「やはり」といった感じでした。というのは、すでにそうだと思っていて、私なりにどうすべきか決めていたからです。
それは、ひと言でいえば「放置」です。
「先生、それはほうっておくということですが、本当にそれでいいのですか?」と聞かれました「がんを抱えて生きるわけですが、気持ちのうえで耐えられますか?」と言われた方もいました。しかし、私の答えはイエスです。このように聞いてくる方たちは、前立腺がんについてほとんど知らず、がんという言葉だけに反応しているからです。