がんは、そのできる部位、つまり、肺、胃、大腸などによって性質も進行度も違います。ですから、がんだからといって、ひとくくりにしてはいないのです。また、いまでは治療法も手術法も進歩して、昔のような「死に至る病(やまい)」のような見方はなくなりました。多くのがんは治癒が可能ですし、また、進行度や年齢によって、必ずしも手術をする必要はないのです。
医者は手術を勧めてくるが……
前立腺がんの主な治療法は、手術(外科治療)、放射線治療、ホルモン療法の三つです。もちろん、経過観察しつつ、複数の治療法を選択する場合もあります。
しかし、初期を除いて、たいていの場合、医者は手術を勧めてきます。手術では、前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱(ぼうこう)と尿道をつなぐ前立腺全摘除術を行います。転移をしていれば、周囲のリンパ節を取り除くこともあります。
2002年、天皇在位時に、明仁上皇は前立腺全摘除術を受けられています。歌手の西郷輝彦さん、俳優の梅宮辰夫さんなども受けています。手術は、昔は開腹手術でしたが、最近は、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術(ダヴィンチ)が主流です。ダヴィンチが導入されてから、これを使う医者が増えています。
ただし、手術には大きなリスクがあります。それは、尿失禁と性機能障害という合併症が起こることが多いということです。性機能障害というのはずばり勃起不全で、前立腺の周囲には勃起に関わる神経が走っていて、前立腺を摘出する際に、その神経を切断せざるを得ない場合があるからです。
ちなみに、放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を照射してがんを小さくする治療法。ホルモン療法は、男性ホルモンの分泌や働きを抑える薬によってがんの増殖を抑える治療法です。
もちろん私は、この三つとも選びませんでした。初めから選択肢とは考えず、前記したように、まずはなにもしないでおこうと思ったのです。それは、これまで、血液検査によるPSA(前立腺特異抗原)の数値が高いにもかかわらず、なにもしてこなかったからです。
私のPSA値は10年ほど前から、10.0ng/mlを超えていました。これは、普通なら「大変だ」という数値なのですが、私はそうは思わなかったからです。PSAには基準値があり、50~64歳で3.0ng/ml以下、65~69歳で3.5ng/ml以下、70歳以上で4.0ng/ml以下とされます。したがって、この基準値を超えると、前立腺肥大症や前立腺炎、前立腺がんが疑われるので要検査となるのです。そうして、がんが確認されると、ほとんどの場合、手術となるのです。
手術が健康を損なうケースも
しかし、前立腺がんは、ほかの部位のがんと比べておとなしく、進行が遅いがんです。そのため、発見されたぐらいで手術をすると逆に健康を損ないます。特に、高齢者の場合は、リスクが高いのです。
そのため、私は高齢の患者さんから「どうしたらいいか」と相談を受けたときは、ほとんど手術を勧めてきませんでした。しかも、アメリカでは、「PSA検査はほとんど無意味」とされています。だから、自分の数値が高くとも、ほうっておいたのです。