医者としての経験からいうと、昔は、前立腺がんなど、ほとんどありませんでした。それが、最近、急増している理由は、医療側からいうと、一つは高齢化です。前立腺がんは歳をとるにつれて発症率が高まるので、高齢化により患者が増えたというわけです。そしてもう一つは、食事の欧米化です。
しかし、本当の理由は、PSA検査が普及して発見数が圧倒的に増えたからです。昔は前立腺がんになっても発見されずに終わり、死んでから解剖したらがんがあったというケースが多かったのです。
つまり、手術は多くの場合ムダであり、たとえ放置したとしても天寿はまっとうできるのです。特に高齢者の場合、手術はする必要がありません。ところが、日本の医者はほとんど手術を勧めます。手術によって、泌尿器科が活気づくからです。また、ダヴィンチは高額な医療機器のため、その減価償却を早めるためもあります。
免疫療法を試してみることに
アメリカでは、「アクティブ・サーベイランス」という考え方が一般化しています。これは、たとえがんが見つかってもすぐ手術しないで検査を続ける。そうして、いざ手術が必要になったと判断したときにだけ、手術を行うというものです。前立腺がんは、その典型的ながんです。
とはいえ、10年間もPSA値が10.0ng/mlを超えているのは、さすがに不安です。そこで、ダイナミックMRIによる確定診断を受けたというわけです。それで、がんが確定となったわけですが、ステージがT2なら、まだほうっておいてもいいと考えたのです。
ただし、一つこの機会に思ったことがあります。それは、がんの免疫療法を試してみるということでした。
免疫療法というのは、“第4のがん治療”といわれ、患者自身が元来持っている免疫力でがんを叩くため、抗がん剤などの化学療法や放射線治療などと違い、副作用はほとんど観察されていません。そのため、これを希望する患者さんは多いのですが、保険適用外なので、日本では一般化していません。