A社では、とても優秀なマネジャーが営業部隊とSE部隊にそれぞれいる。しかしどちらも、実質的にはチームの成果は自分が叩き出すというスタイルで、プレーヤーに徹しているため、マネジャーとして優秀とはいえない。
これは若手マネジャーによく見られる傾向だ。事実、優秀なプレーヤーほど、部下を育てられないという話はよく聞く。優秀だからこそ人の失敗の理由が理解できないし、自分でやったほうが早いからと、1人で仕事をこなしてしまうのだ。
また、上司や先輩の指導力による、部下の成長度合いの格差も問題となっている。最初の上司によってその人のビジネス人生が決まるといっても過言ではない。これでは、教育を怠る上司についた新人は不幸である。
これらを解決するため、私は、実務上でOJTトレーナーが直面する「作業」の継承という点に目を向け、部下育成スキルを高めるアプローチをしていくべきだと考えている。
では、トレーナーは新人にどう教えたらいいのか、「作業OJT」の具体的な流れを説明しよう。
まず、新人が配属される前の準備として、トレーナーは自分の仕事をリストアップする。通常業務のほか、やらなければならないけれどもやれていない仕事についてもピックアップし、部下に仕事を任せることで空いた時間を使って自分は何をしたいのかを考えておくとよい。
大まかなリストアップ終了後は、1つひとつの仕事をさらに作業ごとに分解し、新人に任せられるものを選定する。任せられるか否かの判断は、クライアントへの影響度、仕事の大きさなどの重要度、納期、求められる品質など作業の難易度を踏まえて行う。
それをもとに作業をランク付けし、最初は重要度と難易度の低いものから任せられるように育成シナリオとスケジュールを作成する。
また、作業に対する要求水準についても決めておく。何をどの程度できたら、このスキルおよび業務は習得したと見なすかのラインを明確にするのである。その際、現在の自分と同じレベルを求めるのではなく、自分が初めてその仕事をしたときに、どこまでできたかを基準に設定することを心掛ける。
これら準備作業をすることは、OJT期間中のスムーズな指導を可能にするだけでなく、自分の仕事を体系的に捉え直すよい機会となる。