経験が少なくても自分なりの答えを出そうか

後で先生から、「そんなずるい手を使うな!」とすごく怒られたのですが、「勝利に導くというミッションのためには、多くの人が常識的に考える範囲を大きく逸脱して考え抜く」という特徴が、子どもの頃からあったわけですね。そうした私の個性が、マーケターとしての今の自分につながっていると考えています。

とはいえ、「自分自身を知る」というのは、存外難しいと感じる人も多いでしょう。確かに私自身、さまざまな経験をする中で、この年になっても「自分が知っているのは、世界の中の砂粒1つ程度もない」と、痛感することがよくあります。それに、人間が自分自身を「客観的に評価する」というのも、至難の業でしょう。

私は「今考えるべきことを、自分なりに誠実に考えること。それを暫定的に今の答えにすればいい」と、割り切るべきだと考えています。

例えば、若者が「自分には経験が少ないから、考えても仕方がない」というのはナンセンスです。経験が少ないなりにパースペクティブ(自分で認識できる世界)を確立し、自分にとってベストの答えを出すべきなのです。経験を積んだ上で、もっといい答えが見つかったら、その時点でスイッチすればいいだけの話です。

それでも、もし自己評価に自信がないのであれば、自分のことをよく知っている家族や教師、親友といった周囲の人に、確かめてみるといいでしょう。

長女のために本を書いた理由

一つ注意しておきたいのが、「できそうなこと」が必ずしも「適職」ではないということ。仕事に就くのなら、自分に今できる仕事よりも、やりたい仕事、本当に好きな仕事を見つける努力をするべきです。それが、「天職」に最も近づきやすい方法です。

やりたい仕事で、「自分の強みをどう活かしていくべきか」ということを考えましょう。例えば、「自動車事故をなくしたい」という目標があれば、思考タイプの「Tの人」ならエンジニアになって自動運転技術を向上させる、コミュニケーションタイプの「Cの人」ならPRで自動運転技術を普及させる、といった具体策が浮かんでくるはずです。

森岡 毅『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』ダイヤモンド社

実は、この本はもともと、就職活動や進路のことで悩んでいる様子だった、私の長女のために書いたものだったのです。私の本を読んだ長女は、自分なりに進路を考えて選択のサイコロを振っているようです。「自分が主役の人生を意識することで、自分で選び、行動に移せるようになったんだな」と、うれしく思っています。

ちなみに、私自身も、日本に高度なマーケティングを普及させるために、さまざまなプロジェクトを進行しています。中には、USJにいたときに果たせなかった、「沖縄に世界有数のテーマパークを造る」という事業構想にも取り組んでいます。

1960年代、近くに人口圏が全くない太平洋の孤島でさえ、志のある米国人が将来のために戦略を立てて観光インフラの投資をしたから、50年たった今、ハワイは地価が世界一高い観光地になったのです。対して沖縄は、アジアの巨大人口圏の中心にあるのに、入島数ではハワイと同程度、滞在日数や一人当たり消費額ではハワイに遠く及びません。それだけのポテンシャルがあるのに、リソースを活かせていないわけです。沖縄にも戦略と投資が必要なのです。沖縄を観光で活性化して、日本全体も豊かにする。それが今、私がやりたい仕事の一つです。ぜひ実現させたいですね。

(構成=野澤 正毅)
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