東京電力に残された3つの選択肢
そのときに残された解決策は2つある。一つの方法は、第三者に不足分を払ってもらうという方法である。国は国民負担を最小化するといっているから国が不足分をすべて肩代わりするのは難しいかもしれない。そこで国が音頭を取って賠償支払いのための機構をつくって、そこに他の八電力会社からの拠出を仰ぎ、それで不足分を補うという方法である。第二の方法は、会社の存続をはかるという方法、つまり会社が責任を負い続けるという方法である。かつて会社が賠償を払い終わるまで会社を生き残らせるという方法がとられた例がある。水俣病の賠償支払いのために日本窒素(現チッソ)を存続させた例である。チッソは上場廃止されたが、店頭市場(グリーンシート)で取引が続けられている。
会社を生き残らせるための基本手段は2つある。一つは増資という形で自己資本を増やすという方法。もう一つは融資に頼る方法である。企業は生き残って事業をしていると価値を生み出す能力を持っている。したがって会社の財産をばらばらにして売るよりも、継続的事業体(ゴーイング・コンサーン)として残すほうが、その価値は大きい。そうした場合のほうが顧客にかける迷惑も少なくなる。電力供給が止まる心配もない。出資を仰ぎ自己資本を増やす場合には国の出資に頼るしかない。
融資の場合には、誰かが追加的融資をしなければならない。すでに金融機関は2兆円の融資の実行を約束した。昨年度の純利益がこれからも得られ、それをすべて返済にまわすとして10年かかる金額である。
大きな金額ではあるが、銀行はこの融資が不良資産化する可能性は低いだろうと判断している。国は東京電力を生き残らせるという選択をすると見ているからである。しかし、きわめて不安定な状態にある会社に今後も融資を継続しようとする金融機関は限られるだろう。いずれは国の保証が必要となるかもしれない。
政府は国民負担を最小化するという方針を表明している。国庫からの支出を最小化するという意味だろう。冷静に考えると、どのような方法がとられようと、国民負担は不可避である。融資の保証という金のかからない方法が採用されたとしても、返済資金は将来の電気料金でまかなうしかないからである。考えられなければならないのは、どの方法が国民負担を小さくできるかという問題と、それぞれの方法で、国民のうち、誰がどの程度の負担をするかという問題である。
以上、3つの選択肢は、どれかを採用すると他の手段は選べないという意味で排他的なものではない。会社を生き残らせながら、切り離し可能な資産を売却する方法をとることもできる。東京電力の賠償支払い能力を高め、国民負担を最小化するという観点からは、会社を生き残らせるという選択肢が理にかなっているが、政治的選択は損得判断だけで行われるのではない。どのような選択が行われるか、注意深く見ていかなければならない。
どのような方法をとるにせよ、賠償額を少なくする技術の開発には価値がある。その基本目的は、退避を余儀なくされている人々の退避期間をできるだけ短くすること。あるいは、帰還できない土地をできるだけ少なくすることである。
その鍵は放射能除去技術だ。日本にはフィルターや膜といった周辺技術がある。実際に除去作業をしていけば、その技術をさらに磨くこともできる。その技術をもとに価値のある事業をつくりだすことができれば、その事業からも賠償の原資が生み出せるだろう。誰が負担するかという議論だけでなく、前向きの負担削減法も検討すべきである。