さらに体の運動に加え、手の指の運動もプラスしたい。昔から「手先を使った細かい作業は脳にいい」といわれているが、体の他の部位を動かすこと以上に、手の指の運動が脳を活性化させることが判明している。「ピカソ、シャガール、葛飾北斎らの有名画家は、想像力、思考力、観察力を駆使し、自らの手で素晴らしい絵を生み出しているせいかとても長生き。手の指から脳への刺激がたえず伝わっているからでしょう。実際に手の指を使うと、脳の血流がアップするという研究結果も出ています。運動と同様に、こちらも複雑な動きを選んだほうがいいですね」(白澤医師)。たとえば、上下バラバラに並んだひらがなを、両手の指を同時に動かしてなぞって1つの文章に完成する。0から9まで左右に並んだ数字を、自分の電話番号や携帯番号の順に各々の人差し指で同時にタッチする(図参照)など。一見地味だが、これがなかなか難しい。慣れてきたら、5本違う指でなぞり、スピードを徐々に上げていくと、脳への刺激がどんどん高まっていくという。
普段は聞こえない音を聴く2つの方法
耳を鍛えることは脳を鍛えることにもつながるため、白澤医師は認知症の予防や治療に「音楽療法」を取り入れているという。その代表例がオルゴールだ。「オルゴールの音には可聴領域(一般人が聞こえる周波数の範囲)を超える低周波・高周波が含まれています。通常人の耳には聞こえない音が記憶を司る脳の側頭葉が刺激される」と白澤医師。
さらに「2万ヘルツを超える音域はCDでは収録できないので、生で聴くことをオススメしています。“生”の音楽が生み出す可聴領域を超える周波数は特に効果がある。ヨーロッパでは、教会でパイプオルガンの演奏会が頻繁に開催されていますが、これにもその働きがあります。日本でもパイプオルガンのコンサートが開かれているので、そういう情報をチェックしてライブで聴くのもいいですね」(白澤医師)。
最後は目について。50代から増加する「白内障」はとてもポピュラーな目の疾患であり、80歳以上になると100%が発症するとされる。その原因は、先天性、外傷性、糖尿病などいろいろあるが、多くは加齢によるもの。目の水晶体が濁り、物がかすんでぼやけて見え、日常生活や仕事にも影響が出る。いったん発症して水晶体が濁ると元に戻らず、今のところ有効な治療法がないので、手術が治療の主流とされている。
「2019年4月に、食事由来のビタミンやカロテノイドが加齢性白内障の発症リスクを下げるという中国・西安交通大学と豪州・南豪州大学の研究報告が話題になりました。食事由来のビタミンAの摂取が多い人は、摂取の少ない人に比べて加齢性白内障の発症リスクが19%減少し、同様に食事由来のビタミンC、ビタミンE、ベータカロテン、ルテインなどについても摂取が多い人の発症リスクは、摂取量が少ない人より10~20%減っていました。それらの栄養素を多く含むニンジン、トマト、ほうれん草、柑橘類などはより意識的に食べることで効果があります」(白澤医師)