はやぶさ2が宇宙探査で世界に示した存在感
産経社説は続ける。
「はやぶさ2にはまだ、最も重要な任務が残っている。東京五輪後の来年末に予定される地球への帰還である。無事帰還に向けて、引き続き万全を期してほしい」
帰還できて初めてプロジェクトは成功する。プロジェクトメンバーたちは、たとえ不測の事態が起きてもチームワークの良さを武器にして帰還をみごとに成し遂げることだろう。
産経社説は最後に主張する。
「日本の科学技術が低落傾向にある中で、はやぶさ2が宇宙探査で世界に存在感を示した意義は大きい。日本の科学全体の活性化、再生につなげたい」
「若手研究者や中高生など日本の将来を担う世代には、はやぶさチームから『挑戦する勇気』の大切さを学びとってほしい」
「日本の科学の活性化」「挑戦する勇気」と、実に夢のある主張である。
NTTは技術者確保のため「年収1億円超」も
この産経社説に付け足したいのが、科学技術を担う若い研究者や技術者たちの待遇の改善である。挑戦には生活基盤の安定も必要だ。はやぶさ2の快挙をきっかけに、給与やボーナスを引き上げる措置があってもいいだろう。
JAXAの常勤職員の平均年収は840.7万円(2016年度)。このうち事務職・技術職は803.3万円、研究職は837.8万円だ。またJAXAのサイトでは「年収試算」というページがあり、そこをみると最終学歴が「博士」で、実務経験年数が0年だと年収試算は569万円とある。
こうした待遇は十分なのだろうか。民間レベルでは、IT大手を中心に技術者や研究者の待遇を引き上げる動きが活発になっている。
たとえば今年7月にはNTTの澤田純社長が、米シリコンバレーでの人材採用について年収1億円超を提示する可能性を示している。またNEC(日本電気)は、優秀な研究者に対して新入社員でも年収1000万円以上を支払う制度を10月から導入することを決めた。富士通もカナダの人工知能(AI)関連の子会社で実力のある若手社員に役員待遇の報酬を検討しているという。
世界のIT業界では米国企業などが、世界各国から厚遇をアピールして優秀な人材の引き抜きが激しい。「GAFA」は大卒で1500万円以上の収入があるという。日本のIT業界はこうした状況に危機感を強め、賃金体系の変更を進めているのである。
民間に任せてばかりではいけない。国が若い研究者や技術者たちの待遇を引き上げていく必要がある。そうしなければ、彼らは日本を捨てて海外に飛び出していくだろう。その結果、衰えることになるのは日本の科学技術力である。