いまは英語が通じない国に行くほうが楽しい

【三宅】そういうものなのですね。鈴木さんは役者さんとしての幅が本当に広いですよね。

【鈴木】自分を飽きさせないようにしているところもあるのかもしれません。これは英語学習にも通じる話かもしれませんが、同じようなことばかりしているとどうしても飽きるので、常にワクワクするようなことを探している気がします。

だから外国語の話でいうと、僕にとって英語は万能なパスポートのようなものになりましたが、英語が通じる国に行ったときのドキドキが薄れてきている気がして、逆にいまは英語が通じない国に行くほうが楽しいです。「そうそう、外国ってこういう感じ」みたいな。小学生のときに行ったアメリカ旅行の原体験を思い出すのです。

【三宅】そうですか。

【鈴木】ただ、幅は広いわりに、英語をしゃべる役がなかなか来ないのはなぜでしょう(笑)。『花子とアン』でも、奥さんは英語がペラペラで僕は英語をしゃべれない役でしたから。

【三宅】これから殺到すると思います。

【鈴木】そう願っております(笑)。

明治時代の日本人の方が英語はうまかった?

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【三宅】お話を伺っていると、鈴木さんのひとつのものごとに対するモチベーションや集中力が非常に高いという印象を受けます。それだけ真剣に取り組めば、たしかに英語も演技も上達が早そうです。

【鈴木】モチベーションの話でいえば、それこそ幕末に海外留学したような日本人のモチベーションは僕とは比べものにならないくらい高いものだったと思います。日本の将来がかかっていますし、英語を習う機会もめったにないわけですから。実際、いまでも発展途上国の留学生は貪欲に勉強しますよね。

そういう意味で、もしかしたら人はいろいろな制約があったほうが知識をより吸収しやすいのかもしれないですね。若い子が留学に興味がなくなっているという話も、いまの時代が恵まれすぎているのが原因かもしれません。

【三宅】そうかもしれませんね。

【鈴木】たとえば『花子とアン』の主人公の(村岡)花子さんと、僕が演じている夫の英治さんが、大正時代に実際にやりとりしていた手紙が残っているんです。その手紙を見ると日本語の文章の中に急に英語が入ってきたりしている。しかも、かなり難しい語彙をさらっと使うんです。一度も海外に出たことがない二人がですよ。それはもしかしたら当時は情報が限られていたから、アクセスできる情報は片っ端から勉強しようと思ったのかもしれません。

【三宅】明治時代の日本人は海外の人が驚くほどすばらしい英語を書いていたという話をよく聞きます。

【鈴木】ですよね。だからおそらく海外に留学経験のある昔の日本人は、発音もものすごく良かったのではないかと思うのです。映画やドラマでは演出の関係もあって、日本の近代化がいかに遅れていたかを強調するために、通訳の役でも極端な片言の英語でしゃべらせたりするのですが、もしかするといまの人と同じか、それ以上にしゃべれたのかもしれません。