ハリウッドで活躍する日本人俳優はアクセントを操る

イーオン社長の三宅義和氏

【三宅】理論による裏付けが大事だということですね。

【鈴木】少なくとも僕は大事にしています。僕の知り合いに、ハリウッドで活躍されている役者の松崎悠希さんがいます。彼は単身アメリカに渡って、自分に必要なのは音声学だと気づき、ネーティブに近い発音と、日本人ならではのアクセント(訛り)の両方を徹底的に勉強されたそうです。そのおかげでアメリカ在住の日本人役を演じるときに、滞在期間の設定によって訛りをコントロールすることができるとおっしゃっていました。滞在3年くらいならこんな感じ、10年ならこんな感じといった具合に。

【三宅】それはすごいですね。

【鈴木】日系アメリカ人の俳優や韓国系、中国系の俳優などライバルも多いでしょうし、日々相当な努力を重ねていらっしゃいます。僕の英語はまだまだですので、尊敬する役者さんのひとりです。

俳優の面白さは、自分とは違う人生を生きられること

【三宅】学生時代は演劇を一生懸命されたと伺っていますが、英語での演劇ですか?

【鈴木】日本語です。英語での演劇は一度行っただけです。英語のためにお芝居をするというのもありだと思いますが、僕はお芝居を勉強したかったので母国語でする選択をしました。

【三宅】役者さんへの道は大変でしたか?

【鈴木】そうですね……でも、すごく苦労しているかと言われると、もっと苦労している人は星の数ほどいますから。そういう意味では順調だったのかもしれません。

【三宅】役者さんのやりがいとは何でしょうか。見る人を感動させることですか?

【鈴木】それも大きなやりがいですが、実は僕の中では2番目です。一番は、自分とは違う人生を生きることの面白さです。今日会ったばかりの目の前の人を本当の親友だと思い込む。当然、脚本やスタッフさんのお膳立てがあるからこそできることではありますが。

【三宅】なるほど。確かに鈴木さんといえば体重調整も含めた役作りが印象的です。『天皇の料理番』では本当にげっそりとされて、見ていて大丈夫かなと思ってしまいました。

【鈴木】健康には良くないでしょうね。でも、役に応じて体を合わせていくことは、自分がその役になりきるためにはどうしても必要なことだと思っています。

【三宅】セリフを覚えるのもすごい才能だと思うのですが。

【鈴木】皆さんよくそうおっしゃっていただくのですが、どれだけ長いセリフでも、実は本気になって覚えようとすれば誰でも覚えることができます。本当に難しいのはそこからで、そのセリフや、その役という「人間」をどう表現するか、周りの環境や相手の役をどれだけ「感じとれるか」なんです。確かに役者さんでもセリフを覚えるのが苦手な方もいらっしゃいますが、そういう方でさえ全神経を注がれるのはその後の作業にだと思います。