子供の知識に結びつける「物語」が必要
新たに収納しようとする知識は、過去に収納された知識に結びつくことで記憶定着される。「おっ!なるほど」というあの快感がその瞬間だ。
「見かけは違うが、やり方はあれと同じだな。シメシメ!」
「同じに見えて、その違いに気づいた俺ってエライ!」
「もしかして、この理由はあれと同じか?」
これらが過去に収納された知識に結びつこうとする直前や直後に起こる頭脳の動きだ。出来の良い高校生の頭脳では、それが自然に無自覚に行われ、記憶を強力にサポートする。ところが、小学生の子供の頭脳では、それはなかなか起こらない。収納すべき知識に結びつける相手となるべき、すでに収納された知識が少なく、遠く離れた場所にあるからだ。
中学受験算数を教えるプロは、遠く離れた場所にある既習知識に結びつけることに心を砕く。「ピラミッド相似」「チョウチョ相似」というような解法の名前の出来不出来が学習効果を左右する。三角形とピラミッドやチョウチョという子供が知っている知識に結びつける物語が大切なのだ。
「算数っておもしろいですね!」
子供を混乱させ、成績を下げた理系父さんのほとんど全員が、大学受験学習の自分の成功体験を押しつけていた。「適切なレベルの問題集を一問残らずくり返し解いて、必要な点数を確保した」という自分の成功体験しか知らないからだ。
一方、数は少ないが、子供の成績を上げられる理系父さんも確実に存在する。
ある家庭で、子供を横に座らせ、正面に理系父さんに座ってもらって、「速さのつるかめ算」を教えていた時だ。
私「……だから~になるね。そうすると、この後はどうすればいい?」
子供「面積図!」
私「エライ! じゃあ、やってごらん」
(子供は得意気に面積図を使って解いている)
理系父さん「ずるい! そんな方法があるんですね!」
私「速さと時間の座標平面での面積が距離ですから、理にかなった方法だと考えています」
理系父さん「なるほど、積分して面積や距離を出しましたからね」
このように授業が進み、終了間際に、理系父さんはこう言った。
理系父さん「算数っておもしろいですね! 方程式でゴリゴリ解いていたものが、見事に解けるんですね。奥が深い!」