ベタな「サムライ」に扮装してスーパー店頭に立った大企業の役員

将来的に役員レベルにまでのぼりつめる人には、「若い時の苦労は買ってでもせよ」を地でいくハードワーカーが多いのですが、共通点はそれだけではありません。

彼らは「一歩踏み込む力」が他の誰よりも格段に強いのです。与えられた仕事を一生懸命やるだけで満足するのではなく、何か自分なりのプラスαができないか考えをめぐらします。「これでいい」と考えずに、さらに一歩踏み込む。それを徹底・習慣化しているのです。

例えば、ある大企業の役員は、家庭生活製品の部門を統括していました。

この役員は、地方のスーパーマーケットなどで、自身がちょんまげに裃(かみしも)を着けた侍の格好をして、その生活製品を店頭で販売したそうです。地方だと、「大企業の偉いさん」が侍の格好をして店頭に立つと新聞やテレビで珍しがって報道するので、この会社にとってもスーパーにとってもメリットをもたらすのです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/alphabetMN)

「侍の格好をして店頭販売をしていたら、小学生の女の子から『おじちゃん、リストラされたの』と言われちゃいました」

と、役員は苦笑しながらも、まんざらではない顔でした。他の人はしない、やらない。そんなことを買って出て実行する。時には全力でバカになってみる。そんな「一歩踏み込み、突き抜ける力」が過剰なほどにあるおかげで他の人とパフォーマンスで大きな違いが出るのです。「やらなくていいことまで一歩踏み込んでやる」。このことがトップリーダーになるべき人の必要条件であると私は思います。

自ら額に汗して働いて出世する人がいる一方で、ラクして世渡りする人も少なくありません。例えば、オーナー系の会社で、社長の判断で「息子だから・娘だから」という理由だけで役員になる人たちがいます。それらの人の中にもハードワーカーがいないわけではありませんが、総じて働く時の「熱量」に欠け、「この人と仕事をしたい」という部下は現れにくい。周りの人がその存在を認め、上へ上へと押し上げようとしないと、役員など経営幹部にまで出世することは至難の業です。

【社長になれる人】

社長になる人には、「役員になる人」の条件に加えて次の5つの特徴があると思っています。

一つは、「全体を見る力」です。一部の部署に偏ることなく、全社に目配せできること。これはなかなかできることではありません。前出の役員の仕事も責任重大ですが、まだ「自分が統括する部門の代表」としての色合いが残る。しかし、社長になるとそれは許されません。個別最適の集合体は、必ずしも全体最適ではないのです。全体をベストパフォーマンスにできる人ことこそ、社長の器と言えるでしょう。

二つ目は「人間観」です。人を見る目と、人の気持ちがわかることです。組織のトップである経営者の最大の仕事は働く人をやる気にさせて、人を動かすこと。そのためには、人物を見極める洞察力がないとできません。