炎上した広告のチーフが「女性」なこともある

よくウェブ動画が炎上すると、「炎上狙いだったのでは?」という声が上がります。しかし、同動画に関してはサントリーの新浪剛史社長自身が「炎上はまったく意図していなかった」と後のインタビューで話しています。広告は膨大な予算を使ってする企業発信です。企業の価値を落としては話題になっても損失です。

「出張先でかわいい女の子と知り合ってお酒を飲み、もしかしたらこの先、いい展開になるかも……」といったシチュエーションは、出張における男性の夢なのかもしれません。「頂」のCMの制作には、実は女性も関わっていたといいます。それでも、女性の尊厳よりも男性の夢が優先されるような動画がつくられてしまったのはなぜでしょう。

本心では反対でも、ポツンと女性が一人だけいて、他の人が「いいじゃない、これ」というノリになっていたら、反対できるでしょうか? 年功序列の中での若い男性スタッフも、同じように一人で反対意見を言えない雰囲気があるのでは?

組織の中では、女性が少数派であればあるほど、その目線は男性社会に適したものにカスタマイズされていきます。また体育会系の組織の中で出世する女性は「名誉男性化」していて、実は炎上した広告のチーフが女性だったりすることもあります。女性といっても、いろいろな意見が必要です。だからこそ、複数いることが大切なのです。

「ジェンダー平等」は商品の売り上げにも効果があると明言

「女性が一人いる」だけでは、広告炎上は防げません。多数の目で見ることが大事です。

白河 桃子『ハラスメントの境界線-セクハラ・パワハラに戸惑う男たち』(中央公論新社)

先のP&Gジャパンは、1990年代から25年以上にわたって「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容と活用)」を推進してきました。P&Gが管理職向けに独自開発した「P&Gジャパン ダイバーシティ&インクルージョン研修プログラム」を日本の約300組織に無償提供。日本社会の多様性推進にも貢献しています。

P&Gでは、世界最大の広告主としての意識を持った発信をしています。その一つには「ジェンダー平等」がありますが、P&Gの発信するCMには、それがしっかりと描かれています。

男女の性別役割分業にかかわる企業の発信は、勇気のいることだと思います。踏み込むことによって、賛否両論も起きるでしょう。しかし、P&Gの例からもわかるとおり、グローバルで評価されているのは、より多くの人にとって生きやすい社会をつくりたいというメッセージを発信する企業。

2018年末に行われたメディアや広告を考えるイベント「ジェンダーとコミュニケーション会議 ジェンダーイコールを『伝える』『創る』『変える』」では、ジェンダー平等について発信することで、企業価値の向上、そして商品自体の売り上げにも効果もあるとP&Gは明言しています。

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学、昭和女子大学客員教授 少子化ジャーナリスト
東京生まれ。慶応義塾大学文学卒業後、住友商事などを経てジャーナリスト、作家に。少子化、働き方改革、女性活躍、ワークライフバランス、ダイバーシティなどをテーマとし、講演、テレビ出演多数。 著書に『後悔しない「産む」×「働く」』(齊藤英和氏との共著、ポプラ新書)、『御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社』(PHP新書)、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(是枝俊悟氏との共著、毎日新聞出版)ほか多数。
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(写真=iStock.com)