「女性は数学が苦手」「女性はマルチタスクが得意」「女性は論理的思考で男性に劣る」……。どれも科学的に証明されているわけではありません。怖いのは、これらの思い込みによって本来は能力があるにもかかわらず、本当にそうなってしまうことがあるということ。脳を研究する認知神経科学者細田千尋先生は、「男脳」「女脳」といった観点でものを見ることは、社会的にも科学的にも間違っていると指摘する――。

思い込みが男女の能力差をつくる

「数学が苦手」と感じている女性の方は多いのではないでしょうか。しかし、それはステレオタイプによって作られた思い込みだったかもしれません。「女性は数学が苦手」などのステレオタイプによって、本来ならそんなことはないのに本当にそうなってしまうことを「ステレオタイプ脅威」と言います。この影響を受ける可能性が高いのは、ステレオタイプの対象となる集団に強く自己同一化している人たちと言われています。

例えば、世界的な傾向として、高校までの数学の成績分布では、一般的な難易度の問題では性差は認められないのですが(図表1)、難易度の高い問題では性差が出てきます。そして、ステレオタイプ脅威の影響が出やすいのも、特に難易度の高い問題を課した場合であるとも言われています。

一般的な数学の問題では、成績の男女差はない(出典=Alana Unfried et al, 2014)

「ジェンダー・ギャップ指数」も影響する

※写真はイメージです(写真=iStock.com/alphaspirit)

また、数学オリンピックやチェス、将棋などのボードゲームでのトップレベルの集団に女性の割合が少ないことも、男女の能力差を連想させる一因になっています。これらは、女性の児童期からのボードゲームとの接点の少なさや、その国のジェンダー・ギャップ指数(世界経済フォーラムが発表している男女格差の度合いを示す指数)と関連していることも報告されています(批判的な見解も存在します)。

つまり、女性に与えられるさまざまな機会が乏しかったり、社会からのステレオタイプ脅威があったりすると、たとえ潜在的な能力が高かったとしてもトップレベルでの活躍ができなくなる可能性があるのです。