「男脳・女脳」という言葉がもたらす害
このようなステレオタイプの一例に「男脳・女脳」という言葉があるのかもしれません。
恋人や夫婦などの深い関係から、職場の上司や部下といった社会的関係まで、異性との関わりは避けては通れないものであり、異性のことを理解したい、うまく関係を構築したいというのは多くの人の願望だと思います。
しかし、実際にはなかなか理解できず、悩んでしまう。そのような時に、私たちヒトは、理解できないことで起こる心の葛藤に対して、“もっともらしい理屈”をつけて、自分が理解出来ないということを正当化したくなります。
これを「合理化」と言います。「男脳・女脳」という言葉は、「脳の違い」という一見科学的でもっともらしい理屈によって、自分が理解できないことを合理化しようとしていることの表れとして広まったのかもしれません。
男脳・女脳は存在しない
では、「男脳・女脳」は本当にあるのでしょうか。
そもそも、男脳・女脳の根拠となった論文は、1982年に『サイエンス』誌で発表されたもので、男性9人、女性5人の脳梁の太さを測ったら、女性のほうが太かったというものでした。
しかし、現在の研究の中で主流の考え方は、「男脳、女脳はない」です。
その考え方のベースの一つになっている研究では、13~85歳までの1400人から集めた脳スキャンデータを用いて男女の脳構造差を調査しています。その結果、全体で見たときには、脳の中でわずかな領域に性差が見つかりました。
ところが、個人ごとの脳を見たところ、一人ひとりの脳は、男性に特徴的、女性に特徴的と言われるものが組み合わさったモザイク状の脳になっていて、男/女に特徴的と言われるものを全て持っていたのは、数パーセントの人のみでした。
例えば、街を見たときに、なんとなく街ごとの特徴というものを感じることがあると思います。ところが、その街の一軒一軒の家を見ても、その街の特徴を見つけるのは難しい。完全にその町の特徴を全て満たしているような家もある一方で、多くは、その街の特徴とその他の街でもみられる特徴がそれぞれに特有のバランスで入り交じっています。
同じように、確かに脳構造も全体でみると性差が見られますが、個人それぞれの脳を、男脳・女脳とどちらかに完全に分類する事は困難なのです。