共働きで子供を育てる家庭や介護が必要な家庭は、毎日が綱渡り状態。なぜ、こんなに大変なのでしょうか。立命館大学教授の筒井淳也先生は、「日本人はワーク・ライフ・バランスの意味を間違えている」と指摘します。

家事、育児、介護も仕事である

ワーク・ライフ・バランスというと、日本では「仕事と家庭の両立」という意味で使われがちです。つまり「ワーク」に家庭の外の労働を、「ライフ」に家事や育児を含む家族生活を含めて考えることが多いのですが、これはあまり望ましくない認識です。「ワーク」には仕事という有償労働と、家事・育児・介護などの無償労働の両方を含めて考えるべきです。「ライフ」というのは本来、仕事も家事もせず人生を楽しんでいる時間のことなんですね。つまり仕事をして帰ってきて家事をしてというスタイルで毎日が回っているとしたら、それは「ワーク・ワーク・バランス」ということになってしまいます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Masaru123)

その意味では日本ではあまりにワークの比重が重すぎるので、これからは社会的な合意として「家事・育児・介護も仕事である」と考えていくべきだと思います。妻が時短勤務であってもパートタイムであっても、または専業主婦であったとしても、家事をし、子供の面倒を見ているならばそれはワークなのです。

夫と妻の家事分担においても、男性は家事を楽なものだとして甘く見る傾向があるので、家事は労働であり仕事であると考えることで、話し合いやすくなるでしょう。

共働きのしんどさの背景に「新性別分業」

とはいえ、現実的には「ワーク・ワーク・バランス」となってしまうように、そもそも日本の共働き家庭はなぜこんなにしんどいのでしょうか。

日本では、1970年代から90年代にかけて「夫はフルタイム勤務の正社員、妻はパートタイム+家事」という性別分業が確立されました。それが現在は変化し、「夫はフルタイム、妻はフルタイム+家事」という「新性別分業」になっています。女性は男性と同じだけ働いて同じだけ稼ぎ、しかも家事も請け負う。これではしんどくてフルタイム勤務を辞めてしまう女性が多くなるのも当然でしょう。

第一子出産後に退職する割合は依然として高く(図表1)、結婚して出産し、育児休暇に入るまではフルタイムの社員として頑張るけど、育休明けになると仕事と家事育児を両立させるのがたちまち難しくなるので仕事を辞めるという話もよく聞きます。その状況を変えるには、男性がもっと家事を分担することも大事で、それにはやはり男性も女性も残業をせずに帰れる勤務体制に変える必要があります。

第15回出生動向基本調査(夫婦調査)