三歳児神話を信じ、共働きである息子の家庭に口を出す母親は確固たる信念があるのだろうか。駐在員の夫「駐夫」の経験があるジャーナリストの小西一禎さんは「取材した共働き家庭の夫は、『妻の社会的地位が上がり、周りから褒められるようになったことで、驚くほど母の妻への評価が変わった。今や、妻の育児を大絶賛している。三歳児神話なんて、その程度で張りぼてに過ぎない』と語った」という――。

※本稿は、小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

「気付いた方がやる」という夫妻の役割分担

小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)
小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)

「妻のほうが自分より稼いでいる男たち」として、関西在住の会社員内田さん(三〇代後半)にインタビューを試みた。内田さん夫妻の家庭内での関係をみていこう。夫より妻の収入が多い場合、家事や子育ての役割分担はどうなるのだろうか。家族はどのように感じているのだろうか。

小学生と保育園児の二人の子どもを抱える内田家では、内田さんと妻の家事・育児分担比率は「妻のほうが若干多い」(内田さん)という。現在、妻も内田さんも多忙なため、お金で解決できる外部リソースをふんだんに活用し、ベビーシッターに加え、平日分の食事をつくってくれる家政婦を週一日雇っている。そのほか、学校関連のやり取りはすべて内田さんが担い、週末の食事は妻が全部つくっている。経営者で育休が取れない妻に代わり、内田さんは二人目の子どものとき、育休を取得した。

ウチには、性別役割意識みたいなものは、基本的にないですね。そもそも、性別役割分業がもう存在しないと思っています。何が起こってるかって言えば、子どもは「どっちがパパで、どっちがママなのか、よく分からない」って言うんですよね。子ども的には、どっちがどっちの役割なのか、分かっていないんですよ。男性はどっちが向いてて、女性はどっちが向いてるとかじゃないんです、ウチには。とりあえず、気付いたほうがやるという状況になっています。
赤ちゃんにミルクをあげている父親
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです

今でも父親が絶対権力者という家庭もある

家事も育児も夫婦が力を合わせている日々を「自分の子どもの頃と比べて、全然違いすぎますよ。私の父は、自分の下着がどこに置かれているか、分からなかったと思います。かつては、そうでしたよね」と、父親が家庭内で絶対権力者だった昭和を振り返る。

で、今もそういう人が本当にいるんですよね。信じられなくて。最近、女性の友人から聞いた話ですが、これも「すごいな」と思ったんですけど、同世代の旦那さんがオムツを変えられない、ウンチを処理できないそうなんです。そんな男性が今も、しかも私と同世代にいるんだと驚きでした。家庭生活はどうやって成立しているんでしょうか。あり得ないですよね。

内田さんは続ける。

そういった意味で、妻と私は、ほとんど同じことができます。私ができないのは、母乳だけです。男性に母乳がないのが、本当に不満で。何というか決め手に欠けるんですよね。母乳がないことによって、新生児を寝かしつける際のコストがめちゃくちゃ高くなるんですよ。おっぱいがないため、育休中などは本当に苦労しました。ミルクにしないといけませんから。