“女性は細やか”で“男性は車好き”なのか?
では、その全体的に見たときの脳の構造的な性差は、どんな意味を持つのでしょうか? 実は、その答えは明確ではありません。メディア等でよく言われる、「脳梁の大きさが男女で違うからマルチタスクは女性が得意」ということも証明されていませんし、実際に、5500人を調査した結果、女性は細やかでクリーンである、男性は車とスポーツが好き、といったステレオタイプ(と言われている)を示す人は、0.1%という研究結果もあります。
最近では、発達障害などにおける脳の違いの研究から、「ニューロダイバーシティー」(脳の多様性)という考え方が提唱されています。脳は、ジェンダーなどで簡単に二分されるものではなく、多様性をもつものなのだという理解が、これからはとても重要になるでしょう。
ジェンダーレスな未来へ
「男脳・女脳があるから数学や論理的思考で女性は男性に劣る」ということも、「マルチタスクや言語学習で、女性より男性が劣る」ということもありません。
もしかしたら私たちは、異性のことを理解しようとするがあまり、あるいは、苦手なことの言い訳を探そうとするがあまり、男脳・女脳などという言葉に耳を傾けてきたのかもしれません。これは、ステレオタイプ脅威にもつながり、社会的にも科学的にも間違っています。夫婦間、恋人間でもそのような誤った認識(偏見)の基に相手を理解しようとすることは、良い関係性を構築していくためには、不適切と言えるでしょう。
男脳・女脳という伝説にとらわれて、勉強・仕事・恋愛などさまざまな分野における無限の可能性を潰してしまわないよう、良い意味でのジェンダーレスな未来が来ることを脳の研究をする女性として願います。
参考文献
・DeLacoste-Utamsing,C. & Holloway, R. L.(1982)."Sexual dimorphism in the human corpus callosum". Science.
・Joel D et al, (2015). "Sex beyond the genitalia: The human brain mosaic", Proc Natl Acad Sci. 112(50):15468-73
・Chabris, C. F., & Glickman, M. E. (2006). "Sex differences in intellectual performance: Analysis of a large cohort of competitive chess players". Psychological Science, 17, 1040-1046
・Joel, D. & Fausto-Sterling.(2016). "Beyond sex differences: new approaches for thinking about variation in brain structure and function". Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 371(1688):20150451.
・Bishop, K. M. & Wahlsten, D.(1997)."Sex Differences in the Human Corpus Callosum: Myth or Reality?" Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 21, 581-601.
・Hyde, J. S., & Mertz, J. E. (2009). "Gender, culture, and mathematics performance". Proceedings of the National Academy of Sciences, 106, 8801-8807.
・Nguyen, H.-H. D., & Ryan, A. M. (2008). "Does stereotype threat affect test performance of minorities and women? A meta-analysis of experimental evidence". Journal of Applied Psychology, 93, 1314-1334.
写真=iStock.com