市場の外にある「カオス」な変数を投げかける
そもそも市場メカニズムを説明する数理モデルというのは、変数をものすごく限定してるからこそ成り立っています。その限定された変数のみの間の相互作用を論理化すると、このように説明できますよというだけです。
その説明は、別の変数を投げ入れればただちに覆ってしまいます。
では、フェミニズムがそこに何を投げかけてきたか。たとえば女性が担わされている不払い労働を変数化することに、経済学は成功していません。出生率の増減も、あまりに多様な変数が関与するために、説明可能なモデルがありません。そういう、経済学のモデルで説明できない変数を問題にして投げかけると、市場を「上手に」説明していたモデルはとたんに崩れてしまいます。市場外の変数に目をつぶっているからこそ、美しいモデルができていたにすぎません。
社会学が、なぜこんなに多様でカオティックなのかといえば、社会学者はありとあらゆる変数をとりこんで問いを立てようとしているからですよ。だって、現実はカオスなんだから。
現実の複雑さを縮減しないで、説明することが社会学には求められているのです。
*『社会学用語図鑑』初版のp239は、上野千鶴子先生のご指摘により若干訂正が加えられました。(画像=『社会学用語辞典』)
上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者
1948年生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、コロンビア大学客員教授などを経て、93年東京大学文学部助教授、95年東京大学大学院人文社会系研究科教授。現在、東京大学名誉教授。認定NPO法人WAN理事長。
社会学者
1948年生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、コロンビア大学客員教授などを経て、93年東京大学文学部助教授、95年東京大学大学院人文社会系研究科教授。現在、東京大学名誉教授。認定NPO法人WAN理事長。
(インタビュー=田中正人 構成=香月孝史 撮影=プレジデント社書籍編集部)