離職する社員はたいてい「より高い報酬」「よりよい機会」を理由に挙げる。ところが、離職の本当の理由は、職場への不満であることが少なくない。こうした「隠れた本音」を知ることが優秀な社員を繋ぎ留める一助となる。

スーザン・ジェームズが、ある全国誌での仕事を辞めた理由はいくつかある。「昇進の機会が約束とは違っていた。明確な将来の道筋がなかった。自分の意見に耳を傾けてもらえないと感じていた」。直属のマネジャーは彼女との「退職面接」など行おうとはしなかったが、この雑誌社の社長は彼女を昼食に連れ出して、なぜ辞めるのかと率直に尋ねた。「私も率直に理由を話した」と彼女は語る。

調査が示すところでは、スーザンが離職した理由はありふれているが、彼女がそれを雇用主に率直に話したことはけっしてありふれたことではない。『The 7 Hidden Reasons Employees Leave: How to Recognize the Subtle Signs and Act Before It's Too Late(社員が離職する7つの隠れた理由:かすかなサインに気づいて、手遅れになる前に行動するには)』(Amacom, 2005)の著者、レイ・ブランハムによると、人事部に対してはほとんどの社員が、より高い報酬や、よりよい機会を得るために離職すると説明するが、実際には88%が、現在の職場のさまざまなマイナス要因──標準以下の人事管理から害になる文化まで──のために転職するのだという。

「社員は自分が辞める本当の理由──きれいごとではない理由を言って面倒なことに巻きこまれたくないわけだ」と、ブランハムは説明する。「給与が上がるとか、より大きなチャンスが得られると言っておけば無難なわけで、マネジャーはこれらの理由をあっさり受け入れすぎる」。

アメリカ労働省が2012年末までは労働力不足が続くと予測するなか、マネジャーはこのような事なかれ主義的行動をやめて、社員の離職に真正面から取り組む必要がある、とブランハムは警告している。

それを効果的に行うためには、多くのマネジャーがリテンション(社員の維持)に対するアプローチを見直す必要がある。たとえば、多くの企業でリテンションが関心事になるのは、重要な社員が真剣に離職を考えているかもしれないと幹部が不安を感じるときだけだ。しかし、このような姿勢は、離職という考えが社員の頭をかすめることさえない組織にするチャンスを逃し、間違いなく会社を失敗に追いやることになる。

実際、リテンションの闘いは採用段階からスタートする。企業は自社の短期・長期両方のニーズに適合する能力や関心を持つ人材を採用するが、採用したらただちに、彼らを会社に留めておくための闘いを始める必要がある。この闘いは、社員に迅速かつ有意義なスタートを切らせることに徹底的に的を絞った活動から始める必要がある。堅調なスタートを切らせたら、続いて次のようなアプローチをとる必要があると、マネジャーや専門家はアドバイスしている。