どう見ても状況が自分に不利な交渉でも、戦略次第では最悪のシナリオを避けることはできる。どうしたら圧倒的に弱い立場から脱することができるか。

交渉に関する講座やセミナーを受講したマネジャーや企業幹部がよく口にする不満は、弱い立場で交渉するときはどうすればよいかを十分教えてもらえない、というものだ。あなたのBATNA(best alternative to a negotiated agreement)、つまり交渉が決裂した場合の代替案がどうしようもなく弱いとき、あなたは何ができるのだろう。

あなたの交渉力がどうしようもなく弱そうに見えるとき、それを強くするためにできることはいくつかある。本稿では、自分の立場を強くするための3つの主な戦略を紹介する。(1)自分のBATNAを隠し通す、(2)自分に対する相手の依存度を高める、(3)同じ弱い立場の他企業と組んで力を高める、の3つである。

 

(1)弱いBATNAを悟られない

先だって住宅探しをしていたとき、私は大きなタウンハウスを見つけてオファーを出すことにした。売り手の希望価格を払う用意はあったが、必要以上に高い額をオファーしたくはなかった。どれくらいの額にすべきか考えるなかで、私はいくつもの要因を比較検討した。私がとくに注目したのは、このタウンハウスが空き家になっていることだった。オーナー一家はすでに転居しており、現在、2軒分の住宅ローンを払っているのは明らかだった。私との交渉が行き詰まったら、オーナーはかなり苦しい立場に追い込まれるだろう。この点に気づいたおかげで、私はその家に住居者がいた場合に比べて低い額を、自信を持ってオファーすることができた。売り手は結局、私の最初のオファーにきわめて近い額(希望価格とはかけ離れた額)を受け入れた。

オーナーは自分の交渉力を高めるために何をすればよかったのか。一つは、家が売れるまで家具の一部または全部を残しておくことだったと思われる。そうすれば、自分の弱いBATNAを隠しておくことができたはずだ。