安田隆夫氏の生まれは「岐阜県大垣市」

安田隆夫氏が在日コリアンや帰化人であるという、これら珍妙な都市伝説は、氏の自伝である『安売り王一代 私のドン・キホーテ人生』(文藝春秋)からして、一目瞭然で間違いだとわかる。

安田隆夫氏は前掲書によると、「1949年、岐阜県大垣市」の生まれで、「父親は工業高校の技術科の専科教師。厳格な教育者のイメージそのままの堅物で、酒もたばこも一切やらない。長男である私にはとりわけ厳しく、テレビも“NHK以外は見るな”と言われて育った。いま思えば、父親は戦争を経験し、家庭を守るために必死だったのかもしれない」(P.18)

とある。ネット右翼は何かにつけてNHKを「反日偏向報道局」と敵視し、昨今「NHKから国民を守る党」というカルト的地域政党も誕生するくらいだが、当の安田氏の実父が、バリバリのNHK信仰者であり、所謂「戦後民主主義」の申し子のような人物であったといえる。そうした環境の中で安田氏は育った。

そもそも、ネット右翼が「在日認定」する企業人の多くは、企業人自らが自伝を書く中で、在日コリアン、元在日コリアンであることをことごとく否定している。ネット右翼から反日、在日の批判をゼロ年代の末期から10年代の初頭にかけて受けた電通の成田豊会長もその一人だ。公に刊行されている書籍を少し読むだけでも、彼らネット右翼の言が嘘であることはすぐに分かる。

だが、彼らは資料や本を一切読まない。ただひたすらネット上に繁茂する言説をコピペすることによって、特定の企業やその創業者を「在日コリアン」「元帰化人」と決めつけているのだから救いようがない。

ドンキの店舗が醸す「むき出しの欲望」

さてネット右翼がドンキへの攻撃を強めたもう一つの原因に、筆者は“ドンキが持つ身体的イメージ”を挙げた。これはどういうことなのか。ITmediaの記事「ドンキ創業者が自伝に記した『金銭欲と名誉欲』」(2018年9月19日)にその輪郭が端的にあらわされているので紹介したい。

 ……(前略)現在も、SNS上では「ドンキの客はヤンキーが多い」「客の品がよくない」といった書き込みが散見される。

  なぜドンキはここまで嫌われるのか。もちろん、深夜営業が引き起こす騒音問題が深刻だったという理由もあるだろうが、記者は別の理由もあるのではないかと考える。それは、ドンキの品ぞろえや店舗の雰囲気が醸し出す「むき出しの欲望」に対する嫌悪感だろう。

  例えば、ドンキには男性用の精力剤や筋トレグッズ、女性用のブランドバッグや美容品が所狭しと並ぶ店舗がある。これは、「異性にモテたい」「カッコよくなりたい」という顧客の潜在的な欲望が、むき出しになった状態ともいえる。

ドンキは引用文中にあるように「モテたい」「カッコよくなりたい」という欲望を隠さずに陳列棚に並べている。筆者は、このドンキ自身が持つ身体性へのアピールが、ネット右翼の攻撃を呼ぶ原因ではないかと考えている。