立川談志氏から受けた頼まれ事

小渕さんはよく言えば、気配りに優れた人です。年次を重ねると後輩議員が「こんな話がありますよ」とご注進に来るんですね。橋本さんならそんなときは、頭の回転が速く、よく勉強されているので、その場で「それは認識が間違っている」などとピシャリと言う。けれど、小渕さんは全部話を聞いたうえで、「ありがとう。またなんかあったら聞かせてくれよ」と返す。僕が傍らで「そんな話、オヤジはとうに知っているぞ」と思っていても、終始その調子。その姿勢には非常に影響を受けました。

頼まれ事には、ダメ元で来るものも、本当に困っていて来るものもありますが、いずれにしても僕は、相談事をされたときは即答しないと決めていました。受けてからワンクッションを置いて、回答までに3日間は置くんです。

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本当は「ダメです」とその場で即答できる案件も少なくありません。似たような頼まれ事をたくさん経験しているし、仕組みもわかっていますから。でも、相手は遠方からわざわざ議員会館まで足を運ばれたり、人づてに紹介してもらって電話してきたりと、労力を割いて頼ってきているわけじゃないですか。それを「対応できません」と即答したら、相手の苦労が瞬時にして水の泡になるわけですから。

知人の紹介で、話すのもイヤになるような人が来たときも、対応は変わりません。紹介者が善意で行ってる場合もありますから、その顔をつぶしてはいけません。ただ、後で紹介者に「あの人はダメだよ」とはっきり伝えます。ものを頼まれるときも、頼むときも、相手の気持ちを察することが非常に重要だと思います。

あるとき、参院議員だった立川談志さん(故人)から電話がかかってきたことがありました。

「まいっちゃってさ。友人と一緒に群馬に行ったときに、スピード違反で捕まっちゃってね。おれの用事で行ったもんだから、友人に悪くて。何とかならねぇかな?」

交通違反を取り消せないかと言うんです。難しいだろうなと思いつつ、僕はすぐに群馬県警に連絡しました。案の定、すでに処理を終えているので難しいという回答でした。でも、談志さんは喜んでくれたんです。

「そりゃ、わかっててお願いしてみたんだよ。でも、よくそこまでやってくれたね。ありがとう」

以来、談志さんとの付き合いが始まり、よく銀座の汚いバーにも連れて行かれました(苦笑)。ダメ元の相談でも、手を尽くしたがダメだったという理由が立てば、相談者は満足される。それこそが、頼まれる立場の人が尽くすべき礼儀と言えます。