便利でも不格好だと普及しない

3つ目の利便性・デザイン性とは、実際に決済する場合のスタイルの話だ。

たとえばペイペイのコード決済ではスマホを店員に向けて提示し、店員に読み取ってもらう必要がある。QRコード決済にいたっては店員に出してもらったコードを読み取り、金額を入力してさらに店員に確認してもらうなど、手間も時間もかかる。

筆者も実際に利用してみたが、見知らぬ店員に自分のスマホ画面を提示することに抵抗を感じる上、時間がかかると後ろに並ぶ人からの目が気になってしまう。そしてそんな自分の姿を格好悪いと感じた。

一方、メルペイはスマホをかざすだけで決済できる「iD」に対応している。使い方は店員に告げて端末にタッチすればいい。このスマートさは大きな違いだ。

少し脱線するが、これらスタイルの「格好良さ(かわいさ)」は新しいものが受け入れられるかを図る上でとても重要な要素だと考えている。突飛な例えに見えるかもしれないが、ウォークマンやカップヌードル、スマートフォンを持つ姿が不格好だったら過去のブームは起きただろうか。乗用車などもデザインが生命線である。逆にグーグルグラスやVRなど、期待されながらも見た目の問題でヒットしなかったとされる例も多数存在する。

話を元に戻すと、筆者はメルペイの「iD」対応は、このハードルを十分にクリアしているように思う。おそらくだが最初のキャンペーンの場所に若者文化の発信地・竹下通りが選ばれたのも、メルペイを「格好良い」サービスにしたいという思惑があったのだろう。

ただ、これだけの優位性があってもキャッシュレス決済サービスの主流となることができるかといえば、それは難しいだろう。この分野ではやはりクレジットカードが圧倒的に強く、それに輪をかけて現金は強い。スマホ決済が主流となるには、スマホがあれば財布が必要ない、というくらいまでいかなければ難しいだろう。

メルカリが爆発的に普及した本当の理由

とはいえ本業のメルカリとの相乗効果には大いに期待できる。メルカリの利便性が向上する、決済データが得られる、その決済データを活用して広告や販売促進などの新規事業が展開できる……といったことに留まらず、コンテンツとしてのメルカリを強化し、飽きられないサービスとすることにその真価があると考えている。

筆者は、メルカリをただのフリマアプリではなく「楽しいコンテンツ」であると考えている。実際にメルカリの資料でもユーザー体験の差別化として、「宝探し感覚での買い物体験」「チャット機能」「“いいね”や“フォロー”」など「楽しい」要素が挙げられており、ユーザーの利用時間が他のフリマアプリと比べて2~5倍も長い。

モノをお得に売り買いするだけならこんなに長い時間アプリを見ている必要はないだろう。ユーザーは楽しいからメルカリを使うのである。これは、メルカリがコンテンツであるということと同時に、ユーザーがメルカリに飽きた時がメルカリの終わりであることを示している。

しかし、メルペイによる決済データ、つまりユーザーがメルカリで得たお金を何に使うのかのデータや、これに基づいた広告展開は、メルカリのコンテンツとしての可能性を大きく広げると考える。