文明が人をキレさせる
私はこれを、社会が住みやすくなったことの裏返しではないかと思っています。
たとえば通信販売にしても、かつては注文から商品の到着までに一週間ぐらいかかるのは当たり前でした。少年時代の私などは、雑誌の裏表紙に載っていた、「食べるだけで筋肉がつく」といううたい文句の、今考えると出来損ないのきな粉としか思えないまずいプロテインを、1カ月近く待って購入したものです(あれは完全にだまされていました)。ところが今では、注文した品物が即日届くことも珍しくありません。
わが師匠・立川談志は、「他人の力を借りて不快感を解消するのが文明」と定義していました。なるほど、文明とは「待つ」という行為を否定して発達するものなのかもしれません。逆に、「待たせないように」して、「待つ」ことを不快な感覚にさせることで効率化を促進させてきたとも言えるでしょう。
その結果として「待たせる」ことは害悪であるというフラストレーションが生まれ、「キレる」ことを誘発する下地を作っているのではと想像します。つまり「キレる」というのは文明病なのです。
現代の風潮に背を向ける筋トレのすごみ
だからこそ、現代人にとって忍耐力があることは非常に価値を持ちます。最近、「アンガーマネジメント」という言葉がもてはやされているのも、忍耐力の欠乏状態を示唆しています。犯罪の原点が「怒り」だとすれば、それを抑えるべき「忍耐力」があればクリアできる問題は多いのではないでしょうか。
そこで、「待てる」体質づくりが急務であると考えた場合、お勧めしたいのが筋トレです。筋肥大というこのトレーニングの一番の成果は、あくまでも最後にやってきます。
近年の研究によると、「トレーニング→栄養→休養」というサイクルを、最低でも8週間から12週間は重ねなければ、筋肉は大きくならないことが判明しています。ご褒美が最後に来るこのトレーニングの特長が、すぐに結果を求めようとする現代の風潮になんとなく背を向けているようで、私としてはそれがまたたまらない気持ちにさせられます(重病ですね)。
「待つ」行為がトレーニングとワンセットになっているのですから、これを継続すれば、現代人に不足しがちな忍耐力が必ず身に付くはずです。