日本では大企業ほど部署間、部門間での対立が起きてしまう。原因はなにか。大阪ガス エネルギー・文化研究所の鈴木隆氏は、「組織が細分化されて、コミュニケーション不全に陥り、隣の部署の仕事内容すらよく知らない。企業は“開かれた対話”を取り入れる必要がある」と提言する――。

※本稿は、鈴木隆『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/CreativaImages)

精神医療におけるイノベーション

1984年にフィンランドで始まった「オープンダイアローグ」は、「独白」に陥りやすい統合失調症の患者を「対話」の力で治す精神療法です。この「開かれた対話」はシンプルな治療法ですが、統合失調症は投薬による治療が不可欠である、というそれまでの医学界の大前提を崩したのですから、精神医療における画期的なイノベーションと言えるでしょう。

現在では、うつ病、依存症、摂食障害、ひきこもり、家庭内暴力などの治療やケアにも用いられているほか、職場の人間関係や夫婦関係における問題の解決にも有効であることが明らかになっています。つまり、社会生活を営むうえにおいて、対話は、これまでわたしたちが考えていたよりも、はるかに大切であることがわかってきたのです。

効率化のための細分化が視野の狭さを招く

いまの日本は、みんなが疲弊し閉塞感が漂っています。組織が大きくなると、効率化のために、機能ごとに組織を細分化するのが一般的です。すると、複雑だった機能が単純になるので効率があがります。

しかしその一方で、視野が狭くなり、外への関心が薄れて内向きとなります。狭い範囲で同質化することになるので、異質な情報が減り、アイデアも枯渇してゆきます。複雑さに対応するために細分化したはずなのに、細分化することで複雑さに対応できなくなっているのです。

わたしはかつて5年ほど、企業の基幹となる業務の情報システムを構築し、ICT(情報通信技術)を使って業務そのものを革新する仕事に従事していたことがあります。ユーザー側の窓口として、全体を取り仕切るのが役割でした。

基幹となる業務は、さまざまな組織を横断して流れてゆきます。そこで、全体の業務の流れに沿って、それぞれの組織の担当者に携わっている業務の内容をヒアリングすると、まさに「隣は何をする者ぞ」でした。組織の細分化に合わせて、業務も分断されていたのです。おのずと業務は部分最適化することになります。