日本を拠点に海外との取引にしばらく従事したのち、40代前半のころ、再び海外に赴任することになりました。今度はアメリカ、ロサンゼルス。そこで新たな壁にぶつかりました。英語の発音がまったく伝わらなかったんです。

グローバル企業の中で一番英語を習得すべきは経営者

それまでの香港やギリシャでは、英語が母国語の人がそんなにいなかったので、発音が悪くてもお互い理解し合おうとしていました。でも、アメリカ人相手だとそうはいかない。僕が「シップファイナンス」と言えば「sheep(羊)finance」に、「サンキュー」と言えば「sunk you(あなたを沈めた)」と言ったと思われました。アメリカ英語の発音には苦労しましたよ。

でも、ロスでの4年間があったからこそ、生きた英語を自分のものにすることができた。CEOとなったいま、重要な契約を結ぶときも通訳は介しません。たとえば買収の案件があるとします。買収先の企業の社長の質を見極めるためディナーをして、トータルで3~4時間くらい話しますよね。その限られた時間の中で互いの人間性を確かめ合わないといけない。何気ない会話の中にも駆け引きがある。それは通訳を介してはできないことなんです。そういう意味で、グローバル企業の中で一番英語を習得すべきは経営者です。

グローバル企業で働く日本人を見て感じるのは、しゃべらない、ということ。英語を習得するうえでの近道は、まず無口はダメ。それから恥を忘れる。プライドを捨てる。この3つさえクリアできれば、英語はすぐに覚えられます。この3つは日本人が苦手なことであり、プレゼンテーション能力にも直結することです。

日本人は真面目一辺倒になりがちですが、ビジネスを円滑に進めるには場の空気をつかむことも必要です。そんなときに役立つのが、気の利いたジョーク。最後に私が最近よく使うものをお教えしましょう。

「My English is too poor to understand the speech of previous presidents, but I can easily understand the Trump's.(英語が苦手で、これまでの米国大統領はスピーチで何言っているかさっぱりだったけど、トランプはわかりやすいね)」

これで、つかみはOKですよ。

▼私はこうして英語を学んだ!
○ 分厚い英語の契約書も暗記するくらい5回音読
× 海外駐在の日本人と現地の日本食店に入り浸る
井上 亮(いのうえ・まこと)
オリックスCEO
1952年生まれ、東京都出身。中央大学卒業後、75年オリエント・リース(現オリックス)入社。香港、ギリシャ、米国に駐在した。2006年常務、09年専務、10年副社長を経て、11年に社長。14年にグループCEO。
(構成=辻 枝里 撮影=村上庄吾)
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