ポリシーノートはさらに、「タックスヘイブン潰し」も提案している。正確にはタックスヘイブンを利用した租税回避の制限策で、具体的には、企業グループがタックスヘイブンの子会社に移転した利益に、市場国および親会社のある国が一定の「ミニマム税」を課す。さらにタックスヘイブン子会社へのライセンス料の支払いを「損金」として認めない、といった手法である。
重要なのは、こうした提案が欧米の一部諸国だけでなく、イギリス領バージン諸島やバミューダなどのタックスヘイブン、そして途上国を含めた127の国・地域のコンセンサスを得ているということだ。グローバルな活動で巨額の利益を上げているデジタル企業に、ユーザーや市場を提供している側の国がまるで課税できていない現状をこれ以上放置できないという危機感が、立場を超えて理解されているという証左だろう。
租税回避策潰しは、日本企業にも有益だ
こうした国際的な取り決めは、法人税という直接税を見直そうという取り組みだ。それ以外に、独自の間接税的アプローチによる課税、いわば「デジタル売上税」を実施・検討している国もある。
たとえばフランスは19年1月から、大手デジタル企業の広告収入やプラットフォーム利用料、ユーザーデータ提供料の売り上げへの課税を開始した。イギリスも20年4月から、全世界でのデジタル事業の売り上げが5億ポンド(約733億円)を超える大手企業を対象に、イギリス国内での売上高の2%を売上税として徴収すると宣言している。
もっともこうしたグロスの売り上げに課税する間接税には、法人税との二重課税問題や、新規ビジネスの成長を阻害する可能性、そのわりに少ない税収(せいぜい数百億円規模)など、問題点が多い。ビジネスを阻害せずに、成長産業の利益から各国が適切な税収を確保するという観点に立てば、やはりネットの利益に対して課税する法人税の枠組みで、国際統一的なルールを策定することが望ましい。
タックスヘイブンを用いた租税回避策潰しは、グローバルに競争している日本企業にとってもプラスになると思われる。日本の大手企業で、そこまでアグレッシブな節税策をとっているところは少なく、競争条件の平準化が期待できるからだ。
税の不公平感への怒りがデモなどの行動に直結するヨーロッパに比べ、日本国内でのデジタル企業課税問題の認知度は今ひとつ低いと感じる。だが、日本が議長国を務める19年6月のG20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議は、新しい国際的な課税ルールに向けた重要な舞台になるだろう。これを機に、日本でも租税回避への関心が高まるに違いない。
東京財団政策研究所 税・社会保障調査会
税理士。元国税庁国際課税分析官、税務大学校教授、主任国税訟務官(国際)。大法人、外国企業課税の経験を持つ。財務省主税局、OECD租税委員会事務局等に勤務。IFA会員。